池上彰・総理の秘密<7>

毎回好評の大人気連載「総理の秘密」の7回目は、「総理秘書官」について。日本の最高権力者、総理大臣を支える要職であるが、いったいどのような経緯で誰が選ばれるのだろうか? 池上彰がわかりやすく解説! 知っておくと他の人にちょっと自慢したくなる必読のコラム。

総理秘書官とは

アメリカ大統領と日本の総理大臣の違いのひとつに、スタッフをどれだけ自分で選べるか、という問題があります。アメリカの大統領は、就任すると、大統領の個人的な友人や大学教授、シンクタンクの研究者など、それぞれの分野の専門家を大統領補佐官ほさかんとして任命。ホワイトハウスに連れてきます。彼らは大統領に直接選ばれたのですから、大統領を支え、大統領に忠誠ちゅうせいちかいます。

一方、日本の総理大臣を支えるのは、総理秘書官。こちらは、総理が信頼する政務担当秘書官1人の他は、かすみせきの官僚が出向しゅっこうの形で事務秘書官に就任します。もともと中央省庁の出身であり、首相が退陣すれば出身官庁に戻る立場ですから、忠誠心は、総理に対してよりは、出身母体ぼたいに対して発揮はっきされるということになりがちです。日本の政治が官僚主導であると批判されるゆえんです。

日頃ひごろは総理と中央省庁との連絡や調整の任に当たりますから、「出身母体のスパイ役」を務めるという批判を受けることもあります。

総理秘書官の身分は特別職の国家公務員です。民主党の鳩山由紀夫はとやまゆきお総理のときは、政務秘書官1人、事務秘書官4人でしたが、次の菅直人かんなおと総理、野田佳彦のだよしひこ総理の時代には事務秘書官6人体制、現在の第3次安倍晋三あべしんぞう内閣では、事務秘書官5人体制になっています。

安部総理の政務秘書官は、経済産業省出身で、第1次安倍内閣時に事務秘書官を務めた今井尚哉いまいたかや氏が起用されました。

他の事務秘書官は、外務省、財務省、経済産業省、警察庁、防衛省から出向です。彼らは、出身の省庁では局長一歩手前か課長級クラス。それぞれの省庁で将来の事務次官候補のエリートです。

秘書官の中では、財務省出身者が筆頭格ひっとうかくとなり、他の人より年次が上の人が就任する慣例かんれいになっています。財務省の地位の高さがわかります。

池上彰 プロフイール

いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。

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総理秘書官たち
警護担当者とともに先頭を歩く総理に付き従う、総理秘書官たち。各人が、重要書類がぎっしり入った鞄(かばん)をさげている。1980年(昭和55)撮影。写真/毎日新聞社

(『池上彰と学ぶ日本の総理7』小学館より)

初出:P+D MAGAZINE(2017/01/13)

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