池上彰・総理の秘密<28>
特定の宗教を信じる自由、または一般に宗教を信じない自由のことを「信教の自由」(宗教の自由)といいます。これは憲法でも保障されており、日本国憲法では20条に規定があります。では総理大臣が信じる宗教について、実際のところはどうなのか、着目してみましょう。池上彰が独自の視点でわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラムです。
総理と信教
アメリカの大統領選挙では、大統領が信じる宗教が問われます。国民の大多数がキリスト教のプロテスタントであることから、過去にカトリック教徒で大統領になれたのはJ・F・ケネディだけです。
カトリック教徒のトップはローマ法王。ケネディが大統領選挙に立候補するときには、「アメリカの大統領が他国の宗教指導者の言うことを聞いたらどうなるのか」と心配する声が上がり、ケネディは、「政治と信仰は別だ」と弁明しています。
2012年の選挙で共和党の大統領候補だったミット・ロムニーはモルモン教徒。多くのキリスト教徒は、モルモン教をキリスト教と認めないため、本番では苦戦しました。
その点、日本の総理に関しては、信じる宗教が問われることはほとんどありません。
麻生太郎総理は熱心なカトリック教徒で、就任時にドイツの新聞は「日本にカトリックの総理誕生」と報じました。ローマ法王も大いに驚き、喜んだとのことです。麻生総理がイタリアを訪問した際にはバチカンでローマ法王に会っていますが、日本国内では、ほとんど知られていません。
クリスチャンとしては大平正芳総理もいます。香川県の高松高等商業学校時代、教会で洗礼を受けています。このため正月恒例の総理の伊勢神宮参拝にあたっては、新聞記者から「クリスチャンなのに神社に参拝してもいいのか」と問い質され、困った顔をしましたが、結局参拝しました。実に日本的ですね。
その一方、金光教の信者である秘書の伊藤昌哉をしばしば岡山県の金光教本部に送り、神さまからの「お言葉」の取次ぎを頼んでいました。総理は孤独な存在です。いろんな神さまにすがりたくもなったのでしょう。
バチカン市国を訪れた麻生総理
2009年(平成21)7月7日、麻生太郎総理はローマ法王ベネディクト16世と会談。ビデオカメラをプレゼントした。
写真/AFP、時事通信社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理28』小学館より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/06/09)