文学的「今日は何の日?」【7/27~8/2】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
7月27日から始まる1週間を見てみましょう。

7月27日

オランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホが拳銃自殺をはかる

1890年7月27日、オランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホが、フランス北部の村オーヴェール=シュル=オワーズで、自らの脇腹に向けて拳銃を発射します。銃弾は急所を外れたものの、当地には緊急手術をできる医師がおらず、パリから駆け付けた弟テオに見守られながら、ゴッホはその2日後に息を引き取りました。原田マハ『たゆたえども沈まず』は、そのゴッホと同時代のパリで、ジャポニズムの仕掛け人として活躍した、日本人美術商・林忠正と彼の片腕・加納重吉の目を通して、ゴッホの名作『星月夜』、『糸杉』誕生の瞬間をとらえます。印象派、ジャポニズムと、大きく揺れ動く世紀末のフランス美術界における4人の生きざまを描いた感動作です。


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7月28日

秋篠弘毅が戯曲「恋の巣」の原稿を編集者に渡す――立原正秋『恋の巣』

大人の愛を描く作品で今なお高い人気を誇る、稀代の流行作家・立原正秋『恋の巣』は、恋愛を経て大きく成長する女優を描く作品です。小説家の秋篠弘毅は、劇団未来座に創作劇「春のいそぎ」を書き下ろし、女主人公を好演した小牧梓に興味を持ちます。梓も秋篠に惹かれる自分に気づきますが、彼女には長年にわたり支えてくれるパトロンがいました。「春のいそぎ」の好評を受け、未来座は翌年秋に上演する新作戯曲の執筆を秋篠に依頼。7月28日の午後、秋篠は雑誌「文学時代」の編集者に新作戯曲「恋の巣」の原稿を手渡します。「恋の巣」は、自分が暮らす家を舞台にした、梓と秋篠、そこに集う人々を描いた作品だと知ってショックを受ける梓に、秋篠は……。


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7月29日

幕末の通人・細木香以の祖母が没する――森鴎外『細木香以』

明治の文豪・森鴎外の代表作といえば真っ先に『舞姫』が浮かびますが、実は歴史小説や伝記も数多く残しています。『細木香以さいきこうい』は幕末期に実在した通人・細木香以の生涯を描いたもの。豪商・摂津国屋つのくにやに生まれた香以は、若い頃から狂歌、俳諧を好み、遊郭に出入りしては狂言作者らと交流しました。その豪遊ぶりは、かの紀伊国屋文左衛門になぞらえて「今紀文」と呼ばれたほど。仮名垣魯文、河竹黙阿弥、9世市川團十郎らの後援者としても知られ、為永春水の人情本には摂津国屋藤次郎を略した「津藤つとう」の名で、たびたび登場しています。そんな香以ですが、前半生については彼がまだ4歳の文政8年7月29日に祖母が亡くなったこと以外、あまりわかっていません。


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7月30日

米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』において、丹山家の屋敷が襲撃される

アニメ化された「古典部」シリーズなど、幅広いファンを持つ米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』は読書サークル「バベルの会」にまつわる連作短編集です。その第1話「身内に不幸がありまして」は、丹山たんざん家に引き取られた孤児・村里夕日と、同家の令嬢・吹子の物語。読書家の吹子は自室に大きな書棚を持っていますが、夕日に命じて「秘密の場所」を作らせました。そこに表には置けない、谷崎潤一郎、志賀直哉、江戸川乱歩などの本を隠していたのです。やがて大学生になり、「バベルの会」に入った吹子。毎年行われる泊りがけの読書会を心待ちにしていた7月30日の夜、粗暴な性格と行いから、丹山家を勘当されていた吹子の兄・宗太が、ライフルを手に乗り込んできました。吹子と夕日の運命は……?


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7月31日

世界を虜にした魔法使いハリー・ポッターが誕生する

1997年にイギリスで発売されて以来、世界中の読者を魅了してきた「ハリー・ポッター」シリーズ。主人公ハリー・ポッターは1980年の7月31日、イギリス西部にあるゴドリックの谷で父ジェームズ、母リリーの間に誕生しました。1歳の時、闇の魔法使いヴォルデモート卿に両親を殺されたハリーは、母方の伯母夫婦に引き取られます。魔法使いを嫌う伯母夫婦は、ハリーを人間の子として育てました。しかしハリーの11歳の誕生日に、ホグワーツ魔法学校への入学案内を持って現れたハグリッドによって、真実を知らされたハリー。ホグワーツで出会った親友ロン、ハーマイオニーと共に、その能力を開花させてゆくのでした。ちなみに作者J.K.ローリングもハリーと同じ誕生日。1965年の生まれです。


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8月1日

浅草で赤児を連れた女が長屋から姿を消す――伊集院静『羊の目』

浅草の侠客・浜嶋辰三に育てられた暗殺者・神崎武美の生涯を描く、『羊の目』。武美の実母は内股に牡丹の入れ墨を施した夜鷹で、「度量のある男」と見込んだ辰三に近づきますが、辰三には「神崎」という想い者がいて相手にされません。昭和8年8月1日、夜鷹の女と赤児が姿を消したことに、近所の老婆が気づきます。夜鷹同士の縄張争いから食い詰めた女は、「神崎」の家の裏庭に「辰三さんのような男にしてやって下さいませ」の手紙と共に赤児を置き去りにし、行方をくらませたのです。辰三の庇護の下で育ち、辰三の望むままに敵を始末してゆく武美。稀代の殺人者となった武美を、神は救うことができるのか? 無頼派と呼ばれる伊集院静が、真摯に宗教と向き合った一作です。


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8月2日

歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』で、成瀬将虎と麻宮さくらが出会う

日本推理作家協会賞をはじめ、2004年のミステリー関係の賞を総なめにした、歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』。元私立探偵・成瀬将虎は、平成14年8月2日、地下鉄広尾駅でホームから線路に転落した麻宮さくらを救助しました。自殺目的の飛び込みと見た成瀬ですが、さくらをかばって事故だと証言します。同じ頃、成瀬はジム仲間の久高愛子から、親族が蓬莱倶楽部による悪徳商法で大金を騙し取られた挙句、保険金を掛けて殺されたのではとの疑念を打ち明けられました。愛子の依頼で蓬莱倶楽部の内偵を進める成瀬でしたが、思わぬところでさくらの事件との接点が……。巧みなストーリーテリングに翻弄され、最後に「あっ」と言わされること間違いなしの一作です。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/07/27)

〈第9回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト」
水沢秋生『ミライヲウム』