ヤマ王とドヤ王 東京山谷をつくった男たち 第十一回 漂流する風俗嬢

 

「つい楽しくてハマっちゃいました」

 

 そのページをのぞいてみると、ホストの写真が30人ほど並ぶ。ちょうど真ん中辺りに、ナツキが同棲していたというセイヤの写真も掲載されていた。座った姿勢で膝を立て、黒いパーカーのフードをかぶり、鋭い目でじっと正面を見据えている。髪は茶髪だった。
 ナツキは東北にいた時、出会い系アプリを通じてセイヤと知り合い、やり取りを続けるうちに恋に落ちた。そして上京した。間もなく、アパートでの同棲生活が始まったが、セイヤがホストクラブで働いていることを知らされる。
「一度自分の職場を見に来て欲しい」
 そう切り出されたナツキは東北時代、ホストクラブに行ったこともなければ、それがどういう場所なのかもよく分からない。が、セイヤに尋ねられるまま、物事は進んだ。
「いくらある?」
「5万円」
「大丈夫だね」
 大丈夫ってどういうことだろう。
「身分証ある?」
「あるよ」
「じゃあ7時ぐらいに来て」
 都内の駅で待ち合わせた。現れたセイヤは、アパートを出た時と服装が違い、キラキラしたスーツ姿に、髪型も盛られていた。
 店に入ると、テーブル席には彼ともう2人がついた。ナツキはまだ未成年。飲酒の経験がなかったため、コールドミルクティーを注文した。右も左も分からずの状態だったが、しばらくすると、すっかりホストたちに乗せられ、手の平で踊らされていた。
「目の前にいるのは綺麗な顔の人たちでトークもうまいし、持ち上げてくるんですよ」
 セイヤが周りのホストたちに「彼女と付き合っているんだ」と紹介すると、「お似合いだね!」という言葉を掛けられ、ナツキは舞い上がった。
「他のホストからお墨付きをもらったことで、よほど良い人なんだろうなと、安心してしまいました。私、学生時代のクラスでも男子としゃべったことがほとんどなくて、ちやほやされることに慣れていなかったので、つい楽しくなっちゃって。こんなに男の人に話し掛けてもらえるんだと、ハマってしまいました」
 初日の代金は1万8000円。座って飲むだけにしては高額だと感じたが、それを上回る楽しさのあまり、ナツキはこの日を境に、自分から店に行きたいと言い出すようになる。
「東北では地味で目立たないような生活をしていました。本当はみんなとわいわい騒ぎたいし、友達も欲しいけど、自分に自信もなくて、人の輪に入れなかった。そんな自分が、彼と出会ったことで色々な人とのつながりが急に増え、しかもみんなよくしてくれる。嫌な顔一つしないし、調子に乗ってしまいました」
 ネオンが煌めく夜の街には、心の空白を埋めてくれる何かがあった。

◎編集者コラム◎ 『DASPA 吉良大介』榎本憲男
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