特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第2回]

特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第2回]

 世界の津々浦々を駆けめぐり、苛酷なロケに果敢に挑む姿が共感を呼んでいるイモトアヤコさん。彼女がいまいちばん会いたいという松浦弥太郎さんにとことん訊く、大反響スペシャル対談。待望の第二回です。


松浦
書きます、書きます。書かないとわからなかったりする。結構悩むんだけど、「今はこういう人間に自分はなりたいと思っている」ということが見つかると、いろんなことがサーッて身体から抜けて、ラクになりますよ。

イモト
へえー!

松浦弥太郎さんとイモトアヤコさん

松浦
たとえば四十代になったら、こういう人間を目指そう、とか。六十代になったら、こんな人間を目指そう、とか。そういう考え方をしていくと、ラクになります。どういう人間像を今後目指すかというのは結構、いろんなことを解決してくれますよ。

イモト
なるほど! ちょっと今、わたし、感動しています。不安とどう向き合えば良いか、ということも伺いたかったんですが、そこも解決できそうですね。

松浦
そうそう。

イモト
うんうん。

松浦
「何になりたいか」「何をやりたいか」は意外とどうでも良いな、と思っています。それよりも、自分がどんな人間になりたいのかを考え、シンプルに、「こんな人間になりたい」って思うことに対して、それを見つけたら、そのためにどうしようか、ということを考える。意外と簡単なんです、習慣とか日々の生活とか考え方とか。何を学んだら良いのか、ということも、すぐわかる。

イモト
たしかに。わたしは究極、「何にもなりたくない」というか。

松浦
うん、うん。

イモト
インタビューで「何者なんですか?」って聞かれることがあるんです。「芸人をやりたいんですか?」「女優をやりたいんですか?」って。肩書きを問われることが多いんですけど、たしかに、究極、そう、何にもなりたくない。

松浦
「別に何者じゃなくて良いんですよ」っていう。ただ、自分がどういう人間でありたいのか、っていうことだけは、すごく大事。それは他人に決めてもらうものではないし、運でもないし、自分で意識して自分をそっちに学ばせたほうが良いなって思っています。それはすごく楽しいし、意味があることだと僕は思います。それを言語化して書いたりして、「あ、これ違うな」「違うな。こういう人間になりたいな」みたいに考える。

自分のコンセプトはいつでも変えていい

イモト
松浦さんは今、五十五歳ですよね。どんな六十代を迎えたいですか。

松浦
ちょうど今、そんなことをずっと考えていて。僕は自分がどんな人間になりたいのかっていうことの最初の手掛かりは「どんなことにも感謝して、全てに責任を取れる人になりたい」と思っているんですよ。

イモト
責任、ですか。

松浦
いろんなことが起きるじゃないですか。家族、仕事、日々のコミュニケーション。いろいろあるけれど、しっかりと真正面で向き合う人になりたい。すごくシンプル。これからの将来、六十歳からは、自分がこれまで一所懸命頑張ってきたこと、やろうとしてきたこととはまったく違うコンセプトにしようって思っています。

イモト
気になる! 何か具体的に始めようと思っているんですか。何だろう。

松浦
ちょっとね、まだなかなか言えないんです(笑)。

イモト
「言えない!」。あははは。そうかー。えー。

松浦弥太郎さんとイモトアヤコさん

松浦
でも、そういうふうに思うと、楽しいですよ。

イモト
楽しいかも。

松浦
別に何かになろう、ってものじゃない。「こういう人間になろう」っていうこと。

イモト
たしかにそう考えると、いろんなことが、もっとスムーズに、シンプルに進むのかな、って気づきました。これから実践してみます。

松浦
そっちのほうが、いろんなことで自分が強くなれる気がします。時には苦手な人に会ったり、良くないことが起きたりしますけど、自分がどういう人間になりたいのかが自分なりに見えてくる。そしてそこがわかっていれば乗り越えていける。だから、僕は、若い人に、「何になろう、何にならなきゃいけないのか」って考えなくて良いよ、って言いたいですね。自分がどういう人間になりたいのかを考えるほうがラクになります。

イモト
グサッて来ました。また、その「何になろう」というビジョンも「変わっても良いんだ」ということには安心しました。

松浦
そうそう。

イモト
人って、「初志貫徹」「ブレちゃいけない」みたいなヘンな思い込みがあるじゃないですか。勿論、ブレてはいけないものもあるけれど、自分のコンセプトって、べつに、その時々の年齢、経験で変えて良いんですね。

松浦
変えて良い。

イモト
そう思うと、また一個、ラクになりますよね。

松浦
ホントにそうだと思います。

イモト
そういう世の中になったら良いなあ。「あの時、ああ言ったのに!」って非難されることが多過ぎますよね、この世の中。人は「変わるもの」って皆が思っていれば、もっと寛容な世界になるのかなと思います。

松浦
自分が変わっていく勇気ってとても必要だから、それはきちんと言葉にしていく。「昨日言っていたことと、今日言っていることが違うよね」と言われても、「だって、僕、今、成長しているから」って。

イモト
あ、それ、良い返し言葉ですね!

松浦
昨日より今日は一歩成長している。「学んでいる最中だから、スミマセン」って感じで良いと思います。あとはとにかく、力を抜くことですよ。

イモト
力を抜く……、考え方、日々の習慣もそうですね。

松浦
それが大事だと思います。
 


松浦弥太郎(まつうら・やたろう)
1965年、東京都生まれ。エッセイスト。クリエイティブディレクター。(株)おいしい健康・共同CEO。「くらしのきほん」主宰。COW BOOKS代表。著書に『着るもののきほん100』『ふたりのきほん100』『今日もていねいに。』『即答力』ほか多数。『伝わるちから』は幅広い読者の共感を呼んでいる。

伝わるちから

『伝わるちから』
松浦弥太郎/著
小学館文庫

イモトアヤコ(いもと・あやこ)
1986年、鳥取県生まれ。2007年から日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』に出演。TBSラジオ『イモトアヤコのすっぴんしゃん』ではパーソナリティーを務める。ドラマ、舞台など俳優業にも活躍の場を広げる。2020年、初のエッセイ集『棚からつぶ貝』を上梓。

棚からつぶ貝

『棚からつぶ貝』
イモトアヤコ/著
文藝春秋

特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第2回]

(構成/加賀直樹 撮影/田中麻以)
(ヘア/赤間賢次郎 メイク/久保田直美)
「本の窓」2021年6月号掲載〉

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