【ランキング】クリスマス商戦・人気ベストセラー作家の競演! ブックレビューfromNY<第25回>
バウンティハンター(賞金稼ぎ)が主人公の24作目
主人公のステファニー・プラムの職業は通称バウンティハンター(賞金稼ぎ)。ニュージャージー州トレントンで保釈保証業を営む従兄のヴィンセント(ヴィニー)・プラムに雇われている。ヴィニーは被疑者の保釈金を肩代わりし、その手数料を取っている民間業者だ。被疑者が指定された期日に裁判所に出頭しなかった場合、肩代わりした保釈金は戻ってこないので、被疑者が逃げ出した場合は探し出し、裁判を受けさせる必要がある。そこでバウンティハンターが必要になってくる。多くのバウンティハンターは銃携帯を許可され、手錠を携帯し、該当する法律に従って被疑者を逮捕する権限を持っているが、警察官ではなく、あくまで許可を受けた民間人だ。探す相手をしばしば銃撃戦の末射殺していた西部開拓時代の懸賞金目当ての荒くれバウンティハンターとは違い、現代アメリカのバウンティハンターは法の下での真っ当な職業なのだ。ステファニーは相棒のルラとともに、保釈金を踏み倒し、姿をくらました被疑者たちを追いかける。
24作目になるステファニー・プラムが主人公の小説シリーズの作者、ジャネット・イヴァノヴィッチは1943年、米国ニュージャージー州生まれ。ロマンス小説でデビューしたが、名前が知られるようになったのは、1994年にステファニー・プラムを主人公にした小説“One for the Money”(邦題:私が愛したリボルバー)を出版してからだ。以来このシリーズの小説は、出版されるたびにベストセラーとなっている。
ゾンビの出現と大蛇エセル
その日、ステファニー・プラムは相棒のルラとともに、木に登ったまま降りてこないサイモンと対峙していた。サイモンは墓泥棒、保釈中の身で、今朝、裁判所に出頭するはずが姿を現さず、バウンティハンターのステファニーとルラの出番となった。降りてきて裁判所に出頭するように説得するバウンティハンターの2人に対し、サイモンは、昨夜墓を掘っていて、どうやらゾンビの住処を掘ってしまったようで、ゾンビに追いかけられ逃げ帰り、そのまま怖くて木の上でペットの大蛇エセルと一緒に夜を明かしたと言った。今から裁判所に行っても手遅れで、新たに保釈手続きをする間、数日は家に帰れないから、エセルの面倒を誰が見てくれるか心配で裁判所に行けないと言い張った。ステファニーはエセルを家の中に入れて鍵をかけ、毎日餌をやるからと説得し、やっとサイモンを裁判所に連れて行った。
ところで、ステファニーと相棒のルラは全く対照的な姿形をしている。ステファニーは青い目、茶色の髪をポニーテールにし、オフの時のジュリア・ロバーツのようだとよく言われる。今日のいでたちは、いつも通りのジーンズ、スニーカー、スウェット、Tシャツ姿でキャンバス地のメッセンジャーバッグを肩から斜め掛けしている(ただし、いざという時に備え、ラペルラ[2]のセクシーなレースのパンティをはいているが)。ルラはというと、黒人で(肥満に近いほどの)豊満な肉体を誇り、メタリック・ロイヤル・ブルーに染めた髪の毛を頭上でポニーテールし、今日のいでたちはシルバーのタンクトップとカーディガンのアンサンブルに黒のマイクロ・ミニスカート、靴はピンヒールをはいている。
ステファニーを取り巻く3人の男
ステファニーの周りを3人の男が常に取り巻いている。その時々でそれぞれとの関係は深まったり、疎遠だったりする。現在ステファニーはそのうちの1人、トレントンの警官のジョー・モレリとつきあっている。モレリは、トレントンの街で首なし死体が見つかり自分がその事件を担当することになったと、憂鬱そうにステファニーに話した。次の日、ステファニーは一仕事終えたあと自分のアパートに戻ると、ディーゼルがいた。ディーゼルはステファニーを取り巻く2人目の男だ。謎の男で何を職業にしているのかよくわからない。いつもふらりと現れ、またふらりといなくなる。鍵がかかっていてもディーゼルにとっては何の妨げにもならない。しばらくここに滞在するからと、当然のようにステファニーに告げた。
一方、モレリのほうは大忙しだ。首なし死体事件に加え、今度は葬儀社に安置してある遺体から頭部がなくなる事件も起きた。その後、4つの頭部が遺棄されているのが見つかり、おまけに4つとも頭蓋骨に穴があけられ脳が抜かれていていたのである。
逃亡被疑者の1人、ゼロ・スリックを捜索中のステファニーは、ゼロをデモ隊の中で発見、逮捕しようとしたが、デモ隊に囲まれ逃げられてしまった。おまけにそのどさくさで路上に駐車しておいた自分の車が何者かに盗まれ、ナンバープレートだけがその場に落ちているのを発見した。その時、リカルド・カルロス・マノソ(通称:レインジャー)からステファニーの携帯に電話が入った。「今、君の車はデラウエア川に沈んでいる」と彼は告げた。レインジャーはステファニーを取り巻く3人目の男だ。ステファニーが最初に会ったときはバウンティハンターだったレインジャーだが、今はハイテクを駆使した警備保障会社を経営、ステファニーの車にもGPS追跡装置をつけていたのだ。レインジャーは黒のポルシェに乗ってステファニーを迎えに来てアパートまで送ってくれた。
次の朝、ステファニーはアパートを出たが、車がないと出勤できないことに気付く。すると黒のメルセデスSUVが近づいてきた。中からレインジャーの会社の男が出てきて、「レインジャーからだ」と言ってその車のキーをステファニーに渡し、駐車してあった別の車に乗って去っていった。その日はオフィスに顔を出したあと、ステファニーは大蛇エセルを探さなければならなかった。2日前にサイモンを裁判所に連れて行ってからサイモンの家に戻ってみると、エセルが行方不明になっていたのだった。幸い通報があり、やっとエセルを発見してスタンガンで動かないようにし、メルセデスSUVに乗せてサイモンの家の近くまで来た。その時、エセルが目を覚まして車の中を動き回ったため、慌てたステファニーは運転を誤り、車は道端の公衆トイレにぶつかって大破してしまう。大蛇エセルは壊れた車から這い出てサイモンの家の中に入っていき、エセルに関しては一件落着だったが、借りた車を壊してしまったステファニーは、またレインジャーに迎えに来てもらう羽目になった。家に送ってもらい、公衆トイレで汚れてしまった服を捨て、シャワーを浴びてさっぱりした気分でアパートを出ると、レインジャーから今度はレクサスNX330Fスポーツが届けられた。
レクサスに乗ってゼロ・スリックを探していると、教会の裏でモレリに出くわした。今度はホームレスの死体が見つかったという。頭は付いていたものの、頭部に穴があけられ脳が抜かれていた。トレントンの街ではゾンビを見たという話が広まっていた。そしてゾンビが人間の脳を抜き取っているといううわさもまことしやかにささやかれ始めていた。
車の破壊者、ステファニー
ゼロ・スリックが見つからないまま、ステファニーは新たに別の逃亡被疑者を探し始めていた。ジョニー・チュッチという強盗の被疑者で、もう1年余り逃亡中だったが、最近になって、両親、弟、元妻のジャネットが住んでいるトレントンに戻ってきているという目撃情報があった。ジョニーからしつこく復縁を迫られている元妻ジャネットはステファニーに協力的だった。そしてそのジャネットから、家の近くにジョニーが来ているという電話があり、ステファニーはジャネットの家へ急行した。ステファニーとルラに追いかけられたジョニーは、威嚇のために取り出した銃で誤って自分の足を撃ってしまい救急車で病院に運ばれた。ジョニーと一緒に救急車に乗って病院に行ったステファニーは、逃亡しないことを条件に数日間ジョニーが両親の家で静養することを黙認することにした。そのあとステファニーはジャネットの家の近くに路上駐車しておいた自分の(レインジャーから借りている)レクサスのところに戻ってみると、車の屋根にはヒメコンドル(ハゲタカの一種)が何羽もとまっていた。実はステファニーはジャネットから電話のある少し前、路上に死んだ犬が放置されているのを見て、大蛇エセルの餌にしようとレクサスに積み込んでいた。それからすでに数時間が経っていた。夏の真っ昼間、密室状態の車内で犬の死体は腐乱し、とても車の中に入れる状態ではなかった。ステファニーはレインジャーから借りた2台目の車もダメにしてしまった。優しいレインジャーは電話で「別の車を貸そうか?」と言ってくれたが、さすがに断り、祖母から《ビッグ・ブルー》と呼ばれている1953年型のビュイック・ロードマスターを借りることにした。
そう、ステファニーは乗った車をダメにする名人なのだ。そして最後はいつも祖母マズールのビッグ・ブルーを借りる羽目になるのだった。
ステファニー、《ゾンビの最高指導者》と対決
トレントンの街ではゾンビの目撃情報やゾンビに追いかけられたという情報が飛び交い、モレリを含め警察はその対応に忙殺されていた。どうやら行方不明になっているゼロ・スリックは《ゾンビの最高指導者》を名乗る男を信奉し、彼に協力しているらしかった。
□ 果たしてゾンビは本当に存在するのか?
□ 死体から脳を抜いたのは、ゾンビなのか?
□ 《ゾンビの最高指導者》とは誰で、何を目的としているのか?
そして最後にステファニーは彼女の命を狙う《ゾンビの最高指導者》と対峙することになった。
□ ステファニーの運命は?
□ そして明らかになったディーゼルのトレントンでの謎の行動の理由は?
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主人公ステファニー・プラムは今回も3人の強くて優しい男たち(ジョー・モレリ、ディーゼル、レインジャー)の助けを借り、間抜けな犯罪被疑者たちを追いかける。彼女を取り巻くその他の登場人物も健在だ。年老いてもなお自由奔放な祖母マズールと、対照的にストイックで常識的な母とは、ステファニーはよくランチを一緒に食べる(母の手料理はなかなかの味なのだ)。パートナーのルナは、シリーズ最初のころはオフィスで働く事務員だったが、今やステファニーと一緒に被疑者たちを追いかけるバウンティハンターだ。ジョー・モレリのペットのボブ(犬)やステファニーのペットのレックス(ハムスター)も健在だ。そして毎回のことなのだが、彼女の運転する車は次々と悲惨な目に合う。彼女の車は盗まれてデラウエア川に沈み、レインジャーに借りた2台の高級車も、メルセデスSUVは公衆トイレに衝突し大破、レクサス・スポーツは車内で犬の死体が腐乱し使い物にならなくなった。
この新作もステファニー・ファンの期待に応える要素満載の作品に仕上がっている。
[2]ラペルラは1954年にイタリアで誕生した上質ランジェリー・ブランド名。
佐藤則男のプロフィール
早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!
初出:P+D MAGAZINE(2017/12/19)
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