連載小説

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第211回
「対照試料ありきのDNA型鑑定の問題点について、園山証人が指摘しました。それについて反論は?」「反論なんかする必要ないんだって。煙草の吸い殻のDNAは被告人のDNAと一致した。それによって劣化していない試料であることが初めて証明された。精子のDNAは? あの型鑑定の結果がたまたま出たでたらめな数値じゃないってことは、答
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第210回
「すでに述べたように、吸い殻と精子のDNAは別人に由来するので、ほとんどの型が一致していませんが、一番高いピークと一番低いピークを比べてみると、あることがわかります」園山は具体的に注目すべきピークを指定した。「どちらも精子のピークの方が高い。私がすべてのピークの高さを集計して平均を割り出した表も出してください」志鶴は言
深明寺商店街の事件簿4兄弟編
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがた
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第209回
「先ほどの遠藤証人への尋問で、塩素系漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムはDNAを破壊する、という証言がありました。次亜塩素酸は、法医学など検査や実験を行う現場ではどのような位置づけのものでしょうか」「次亜塩素酸ナトリウムは生化学の世界ではとてもなじみ深い試薬の一つで、検査室には何本もの容器が常備されています」「なぜ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第208回
「その二つの事件が、どんな風に科警研の退職に影響したんですか?」「よくぞ訊いてくれました」園山がにっこり笑う。「科警研ってね、全国の都道府県の科捜研の研究員たちが研修に集まる、科捜研より上位の組織なんですよ。DNA型鑑定の資格も、科警研の研修を受けないともらえないんです。言ってみれば日本の科学捜査の最高峰、総本山。あれ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第207回
 休憩を挟んで開廷された。遠藤の席は空席になっている。「裁判員の皆さんに説明します。本日の残りの証人尋問は、綿貫さんの体内から採取された精子のDNAを争点としています。検察側は、精子のDNAは漂白剤によって破壊されているので鑑定結果は信用性が低く、精子のDNAに証拠価値はないと主張しており、弁護側は反対に、精子のDNA
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第206回
「あなたは先ほど、漂白剤から次亜塩素酸ナトリウムが検出された、とおっしゃった。次亜塩素酸ナトリウムは消毒や殺菌などにも用いられる、われわれにとって比較的身近な化学物質です。しかし、鑑定作業においては一筋縄ではいかない存在としても専門家には知られている。時間経過した液体試料や液体をかけられ変色・脱色した乾燥試料からは検出
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第205回
「検察官、反対尋問を」能城が言った。「青葉が──」青葉が立った。「あなたは先ほどの主尋問で、煙草の吸い殻のDNA型鑑定を行ったときと、精子のDNA型鑑定を行ったときとは同じ条件だったとは言えないという回答をしました。その意味を教えてください」「はい。煙草の吸い殻のDNA型を鑑定したときは、採取された試料の管理状態は申し
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第204回
13 公判前整理手続で綿貫絵里香の膣内から採取された精液のDNA型鑑定書の証拠採用を請求したが、検察側から不同意とされ、鑑定書を作成した遠藤が証人尋問されることになった。今度は志鶴が主尋問に立つ。「すでに遠藤証人の氏名、所属、資格、経歴等については先ほどの尋問で明らかになっておりますので省略します。あなたが令和×年三月
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第203回
「先生は、二つのDNA型が『検査した十六のローカスで完全に一致』した、とおっしゃいました。実際一つ一つのローカスを見るとピークの数と位置が完全に一致しています。この結果の意味するところは何でしょうか?」「ここからはDNA型鑑定の確率の話になります。たとえば血液を考えましょう。現実の鑑定はもっと複雑ですがここでは単純化し
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第202回
 モデル図では管のマイナス極からプラス極へとDNAの移動する様子を表す矢印が描かれ、プラス極の到達点を拡大した図には左右に二本、鋭い三角の突起が描かれ、プラス極に近い方に「7型」、もう一つには「12型」と書かれていた。「短い塩基のくり返し数が多いほどDNAは長くなり、重くなります。くり返し数が少ないほどDNAは短くなり
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第201回
 休憩後、一人目の証人尋問が始まった。足立南署刑事課鑑識係に所属する女性警察官だった。綿貫の遺体遺棄現場で煙草の吸い殻を採取し、証拠として保管して報告書を作成した。蟇目は、その一連の手続きが国家公安委員会規則である犯罪捜査規範に則(のっと)った適正なものであったことを証言させた。尋問の途中では綿貫から出血した血がついた
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第200回
 ヒトの遺伝子……99.9%は共通 「じゃあどうするのか。残りの〇・一パーセントの中で、とくに個人間で違いがわかりやすいごくごーく一部の特定の部位に注目し、そこだけをピックアップして調べる。その注目する特定の部分──ターゲットになる部分のことを『ローカス』って呼ぶわけだ。はいもう一度」剣持はまたディスプレイにローカスの
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第199回
「DNAには特徴がある──」剱持がリモコンを操作した。DNAの特徴①(ヒトの肉体を構成するすべての細胞を作るための情報と、)遺伝情報が入っている ②どの細胞核にあるDNAも、基本的にすべて同一でかつ終生変わらない 「①の前半──カッコ内の部分は今日は無視していい」剱持は証言台のタブレットのタッチペンで該当する部分を赤線
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第198回
12 五月二十九日。増山の第五回公判期日。傍聴席には抽選に当たった増山の母・文子の姿があった。彼女を見た増山の目が潤んだ。それを見た文子の顔が歪んだ。能城が開廷を告げた直後、志鶴は立ち上がった。「裁判長、本日の証人尋問に先立って、弁護人から要請があります」能城が険しい目で見下ろしてくる。「何か」「綿貫絵里香さんのソフト
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第197回
「遺体遺棄現場について聞き出すのに少なくとも二十分かかったと今証言されました。あなた方が増山さんを犯人と断定して、殺害時の状況を聞き出すのに約一時間十分ほどかかった。そういうことになりますね」 そこで目を左右に泳がせた。自分がそれと知らず誘導されていたと気づいたのかもしれない。「まあ、きっちり計測していたわけじゃないで
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第196回
「読み上げますので見ていてください。『実施日時 令和×年三月二十四日午前九時〇分から三月二十四日午後四時三十分まで』──今私は正しく読み上げましたね?」「はい」「増山さんが留置されていた足立南署から、引き当たり捜査を行った荒川河川敷の現場まで、片道の移動時間はどれくらいですか?」「……諸々(もろもろ)、準備などを含める
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第195回
「被告人が遺体遺棄現場へ向かって歩く前後に、捜査員で気をつけていたことがあれば教えてください」「係長以下、われわれ現場に立ち会った捜査員が徹底して心がけていたのは──被告人を誘導しないことです」「誘導しない? どういう意味でしょう」「専門用語で『秘密の暴露』と言いますが──」久世はピンク色の唇を舌で湿した。「われわれ警