連載小説

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第106回
 家の近くは避けたいという彼女が指定した待ち合わせ場所は、隣接した足立区綾瀬(あやせ)にある小さな公園だった。夕方六時。まだ完全には暗くなっていない。私服でベンチに座っていた萌愛に鴇田はすぐ気づいた。
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 11 「二〇一〇年? なにそれ。本当?」  苦笑して問いかけ、柿沼はコーヒーを飲んだ。頷き、みひろは答えた。 「本当です。賞味期限の日付まで覚えてますから」 「河元は人はいいけど、大雑把なところがあ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第105回
 鴇田がその年代の女とセックスをしたのはアメリカ留学時以来だった。  アルバイトをしていた造園業の得意先に不動産会社を個人経営する白人のシングルマザーがいた。仕事でやり手の彼女は営業を兼ねた付き合いが
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 8  三十分ほど走ったところで脇に入り、山道を少し登ると前方に石造りの塀と大きな鉄の門が現れた。事前に連絡してあったらしく、みひろたちの車が着くのと同時に奥から生成り色の上下を着た若い男が現れ、門を
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第104回
   鴇田が初めてセックスしたのは小学五年生のときだった。相手は三十代の人妻。鴇田をモデルにしたマダムの作品シリーズのコレクターで、当時マダムが開いていた絵画教室にも生徒として東京から通って
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第103回
 アンティークの木のデスクに向かって座ると、残りのクッキーを口に放り込んで仕事でも使っているノートパソコンを開いた。引き出しから一テラバイトのポータブルSSDを取り出しUSB端子にセットして、暗号化し
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 4  予想外の展開に、みひろはうろたえた。だが慎は動じることなく、柿沼に「遺体が気になり本庁に戻る途中で立ち寄りました。赤文字リストとは?」と問い返した。すると柿沼は、「監察医と話があるから、駐車場
辛酸なめ子「電車のおじさん」第18回
 ラッシュの電車にむりやり乗ってくる人は、次の駅で降りたい人がいるのにどいてくれないことが多いです。玉恵は常々苛立ちを覚えていました。考えるまでもなく、強引に乗り込んでくるマインドの人だからこそ、降り
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第102回
 エマが樹上からするするとうっとりするような滑らかな動きで頭を先に降りてきて、胴体を幹に巻き付けたまま鎌首をもたげると、素早くマウスに食らいついた。長い牙でしっかり保持してから顎を開き、何度かくわえ直
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 1  青梅(おうめ)街道を外れると、未舗装になった。阿久津慎(あくつしん)は車のスピードを落とし、がたごと揺れる狭い山道を登った。 「あそこですね」  助手席の三雲(みくも)みひろが、フロントガラス
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第101回
 客たちが取り皿に料理をよそいはじめた。  生野菜やクラッカー、ナチョスで食べるディップはワカモレ、ホットツナ、ビール入りチェダーチーズの三種類。フィンガースナックはココナッツ・シュリンプ、コーンフリ
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 9  翌日の午前十時過ぎ。みひろは慎と用賀分駐所の会議室にいた。長机を挟み、向かいには里見が座っている。 「本当に川口巡査部長は、全部話したんですか?」  背中を丸め首を突き出すようにこちらを見て、
▽▷△超短編!大どんでん返し▼▶︎▲ 長岡弘樹『教場0.5 刑事指導官・風間公親』番外編「最後の指導」
 風間公親は、同じ県警捜査一課の織部匡章とともにその死体の前へと歩み寄った。 「わたしがきみに刑事としての指導をするのも、これが最後になる。そこで、もう一度だけ変死体を調べるときの基本を、簡単におさら
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第100回
「ほんとだ。これだけ余裕があれば、十二──いや十五人のパーティもまかなえそう」漆野の妻はグリルから鴇田に目を向けた。「これ、オーブンにもなるんですよね。最高温度は?」 「摂氏三百十五度です」 「四百度
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 6 「あのマンション、築二十年ぐらいですよね」  沈黙を破り、みひろは口を開いた。運転席で資料を読んでいた慎が顔を上げ、フロントガラス越しに前を見た。三十メートルほど離れた場所に、マンションがある。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第99回
 断章──鴇田        1    ほのかに潮の香を含んでいるがべたつかない風が、アメリカンカントリー調に植栽された庭の木々の葉をさらさらと鳴らす。日差しは柔らかで、ゆったりし
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 4  正午を過ぎ、里見たちは休憩のために用賀分駐所に戻った。みひろたちも一緒に戻り、会議室を借りて聞き取り調査を始めた。  警視庁は都内の警察署を十の方面に区分けしており、四隊ある自ら隊もそれぞれ担
辛酸なめ子「電車のおじさん」第17回
 人間は辛いときのほうがクリエイティビティが発揮されるのでしょうか。玉恵が、ストーカーじみてきた外山先輩への恐怖から発案した「手放しノート」の企画は意外にも上司からの受けが良く、発売できそうな気配です