連載小説
「なんて?」 「だから、転職」 「うそでしょ」 「できる人間が、もっといい待遇を求めるのはあたりまえでしょ。会社が困るなら、もっと給料払って引き留めれば良い」 彼の発言は、どこからどうつついても正論
美容整形外科に来た。 芦屋にある、待合室はすべて個室、そこにある椅子もすべて猫足という、ある意味ブランディングのしっかりしたオール自費診療クリニックである。 「こちらがバッカルファットですね」
インスタブックの新しいアカウントで女たちとセックスしながらも、鴇田は浅見萌愛を忘れることができなかった。たんにセックスのみならず、殺人というそれまで知らなかった快感が加わったことにより、彼女は鴇田に
墺太利(オーストリア)が独逸(ドイツ)の一部分になったあたりから、アンティヌッティはニコデモに向かってはっきりと、作曲を促すようになった。 「なぜ書かないの?」アンティヌッティはあどけなさを装うよう
荒川河川敷を出ると、ふだんは聴かないAMラジオをつけ、一時停止や法定速度をきちんと守って車を走らせながら、②と③について思考を巡らせる。 ②。警察が優秀でやる気があれば、インスタブックを通じて
LINEのメッセージ。文頭がポップアップされる。 後藤(ごとう)みくる『トキオ、どうだった?』 みくるは「ズッ友」の一人。萌愛が相談した相手は彼女だったのだ。 メッセージを未読にしたまま考える
ラスパイユ通りのはずれから入るゴルゴン小路(こうじ)に面したアパートは、室内に入ると通りの薄汚さが噓のように広々として天井も高かった。僅かばかりの家財道具とベッド、それに古い書き物机と椅子、そし
会社で「祖父活」疑惑をかけられた玉恵。パパ活よりもさらにディープな語感です。社内でどのくらい広まっているのかわかりませんが、不思議と60代以上のおじさん社員が優しくなったような気がします。彼女は、結
さて。 後始末をしなくては。 殺人となると淫行とはわけが違ってくる。捕まって有罪にでもなればだいぶ不自由になるだろう。だが大丈夫。暴行や傷害以外にも、たんにスリルを味わうため、窃盗や器物損壊を幼
「大丈夫」 「え。だって……」 「妊娠したら産んでいい」 「──え」萌愛の顔が固まった。信じられないという目で鴇田を凝視した。 「マジで言ってる。お前と母親と生まれた子の生活の面倒をみてやる。萌愛が十
(前編のあらすじ)深明寺坂で交通事故が起きた。運転手は焼き鳥の串を喉に刺し死亡。唯一の目撃者は小学生の良太で、事故直後、車の屋根越しに人影を見たという。良太の様子に不審を覚えた兄の福太と学太は、事故の
それを聞くとアンティヌッティの唇が、頰の上で大きく広がった。瞳がじっとニコデモを見た。まるで催眠術をかけようとしているみたいに。ニコデモは動じなかった。 「いいじゃない」アンティヌッティは言った。「
3 鴇田がLINEで会おうと連絡すると、既読がついてからいつもより長い時間が経(た)って萌愛から返答があった。 『いやです。お金くれないなら、もう会いません。友達にも相談しました。あんま
「雇い主は俺だ。インスタブックだとセックスかサーフィンしかしてないみたいに見えるだろうが、俺はビジネスも持ってる」 「お母さんが、トキオさんの……?」うつむいて考える。強く首を振った。 「何でだ? お
ピリエ国での生活は修道僧の如(ごと)しで苦行を重ねておりますが、世間の風に曝(さら)されることもなく純粋なる学究の世界に埋没できるのは幸甚であります。また勉学に次ぐ勉学で息が詰まるということもな
鴇田は萌愛に、金を払うから会おうとメッセージを送った。彼女は応じた。同じ公園で待ち合わせ、荒川河川敷の同じ場所に車を停めた。萌愛はずっと固い表情で黙り込んでいたが、「先にお金ください」と言った。
2 天井のスピーカーから、午後五時を告げるチャイムが流れた。みひろは抱えていた段ボール箱を別の段ボール箱の上に載せた。息をついて手の埃(ほこり)を払い、室内を見回す。 今朝「今後のことは、また知
休日の昼下がり、カフェでお茶を飲んでいたら、隣の席で若い男女がスイーツを食べながら、小声で何か話していました。「パパがね……」と女子が声をひそめて話すのが玉恵の耳に入り、なんとなく気になって耳を傾け