文学的「今日は何の日?」【5/4~5/10】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
5月4日から始まる1週間を見てみましょう。
5月4日
『好色一代男』の主人公・世之介、9歳にして初めて夜這いに……
裕福な商人と名高い遊女の間に生まれた世之介が浮世の色恋の限りを尽くす、井原西鶴の『好色一代男』。その世之介は9歳のとき、庭で行水していた女を、望遠鏡を使って屋根から覗き見します。5月4日の夕方でした。気づいた女がやめるよう頼んでも、聞き入れるどころか「今夜、人が寝静まったら忍んで行く」と言い出す始末。そうは言っても来はすまいと高を括っていた女でしたが、世之介は本当にやってきてしまいます。一人前のような顔をして、膝枕で口説きにかかる9歳児に女はたじたじ……。俳諧師として活躍していた西鶴が初めて手掛けた、浮世草子時代の幕開けを告げる記念碑的作品です。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658066
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5月5日
魔剣・音無しの構え――『大菩薩峠』の机竜之助が宇都木文之丞を惨殺
中里介山の未完の大作『大菩薩峠』において、安政5年のこの日、武州御岳神社で奉納試合が行われました。主人公の剣術師範・机竜之助は、対戦相手である
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4480032215/
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5月6日
ダシール・ハメット「つるつるの指」で、殺人事件の被害者が15000ドルを口座から引き出す
ダシール・ハメットといえば、サム・スペードとコンティネンタル・オプの、名探偵2人を生んだハードボイルド作家。短編「つるつるの指」において、富豪ヘンリー・グローヴァ殺害の真相を探っていたコンティネンタル・オプは、1922年の5月6日、グローヴァが銀行口座から1万5千ドルもの大金を引き出していたことを突き止めます。使途のわからない引き出しはその後も続き、総額はなんと4万7500ドルに。これらの金はどこへ消えたのでしょうか。やがて捜査線上に浮かぶ1人の男。果たして事件の真相とは?
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5月7日
「作家アリスシリーズ」有栖川有栖が火村英生と初めて出会い、150円のカレーライスを奢ってもらう
有栖川有栖の「作家アリスシリーズ」は、著者と同姓同名の推理小説作家・有栖川有栖が語り手となって、臨床犯罪学者で名探偵の火村英生の活躍を描く人気作。火村の明晰な推理はもちろんのこと、火村とアリスこと有栖川の名コンビぶりが広く愛されています。2人の出会いは大学2回生の年の5月7日。講義の最中に小説を書いていた有栖川の隣に座った火村が、勝手に原稿を読んだのがきっかけです。講義が終わって引き上げようとする有栖川に火村が声をかけ、小説を読ませてもらったお礼にと、150円のカレーライスをご馳走するのでした。名コンビ2人のファースト・コンタクト記念日です。
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5月8日
太宰治『正義と微笑』、劇団・鴎座の研修生募集試験の前日
実業家だった父を8歳のときに亡くした芹川進の、16歳から17歳までの日々を日記体で描いた短編『正義と微笑』。一高受験に失敗してR大学に進学した進は、大学にも失望していました。映画俳優になろうと考えた進は、文壇の大御所・斎藤市蔵から劇団・鴎座で研修生を募集していることを聞きつけます。鴎座に電話すると、試験の前日5月8日までに履歴書などの写真を送るようにとのこと。試験に備えて床屋へ行き、兄を相手にセリフの稽古をして前日の夜を過ごした進は、無事試験に合格できるのでしょうか? 太宰には珍しい、明るく前向きな雰囲気が漂う作品です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101006113/
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5月9日
玄侑宗久『中陰の花』で、おがみやのウメさんが、自分の死を、予言した日
第125回芥川賞を受賞した、玄侑宗久の『中陰の花』。臨済宗の僧侶である主人公・則道が、「おがみや」とよばれた89歳の女性・ウメさんの死をきっかけに、この世とあの世の中間である中陰の世界を受け入れ、自身の人生や妻との関係を見つめ直す物語です。ウメさんは5月9日に自分が死ぬことを予言していました。事実、いったん心臓が停止しますが、懸命のマッサージで蘇生したのです。しかし、その数日後には29日に死ぬとの二度目の予言が……。自らも現役の僧侶であり、キリスト教やイスラム教をはじめ、さまざまな宗教や宗派に触れた経験をもつ作者が独特の視点から生と死を描いた、心にしみる佳作です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4163205004/
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5月10日
池井戸潤『鉄の骨』の主人公・富島平太が業務課への異動後、初出社
大学卒業後、中堅ゼネコン・一松組に入社した富島平太は、3年にわたり建築の現場に立ってきた熱い男。そんな平太が、突然、本社業務課への異動を命じられます。大学で建築学を学んだ、現場第一の平太にとって、業務課は畑違い。別名を談合課ともいわれる、大口公共事業の受注部署なのです。異動初日の5月10日も、区役所の土木課で公共工事の入札情報を聞き出そうとする先輩社員・西田に同行させられ、正義感の強い平太は反発を覚えます。果たして、西田の言うように「談合は必要悪」なのでしょうか? 池井戸潤が2009年第31回吉川英治文学新人賞を受賞した問題作です。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062770970/
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初出:P+D MAGAZINE(2020/05/04)