ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第89回

ハクマン第89回
大ブレイク中の
AIお絵描きツールを
自分でも試してみた。

そんなわけで、現在ブレイク中のAIお絵描き装置を自分でも試してみることにした。
この機能は、「こういう感じの絵を描いてくれ」と言葉で伝えるだけで、AIがそのイメージで絵を描いてくれるという優れものだ。
そして普通なら最低1日はかかるだろうという絵を10秒程度で描いてしまうのである。
クリック一つで集中線ができてしまうのを目の当たりにしたアナログ作家の気持ちが少しわかった。

ただ、残念なことに、現在のところこのAIは英語にしか対応していない。
つまり描いて欲しいもののイメージを英語で伝えなければいけないのである。
日本語でさえ3回に1回しか伝えたいことが伝わらず「もうそれでいいっす!」と言ってしまう自分には若干敷居が高いが、相手が人間じゃないというだけで居丈高に指示を出せるという利点もある。
むしろコミュニケーション能力の問題でアシスタントを雇えない作家にとってAIは救世主になる可能性がある。

まずAIに何を描いてもらいたいかだが、どうやらエロい絵は描けないらしい。
この時点で描いて欲しいものの99%は封じられたことになるが、煩悩が消え去った後パンドラの箱には「猫」という最後の希望が残るのである。

この機能は他の人がAIに描かせている絵もリアルタイムで見ることができるのだが、私同様「猫」を描かせている人が異様に多い。
自分の指示通り絵を描いてくれるツールを手にしたことで「自分には描いて欲しいものなど何もなかった」という己の空芯菜ぶりに気づいてしまう人間も多いと思うが、そんな人間にも「猫」という最後の希望が残ったということだろう。

よってまず「Cat Control World」と入力した。
「猫が支配する世界」という意味だ。せっかくなら自分が描けない理想郷を具現化して欲しい。
そう指示を出すと、AIは早速描画を開始し、ものの十数秒で巨大な猫や一つ目の猫の大群が世界を支配している様子が完成した。
猫が単眼なのは若干解釈違いだが、おキャット様に支配される世界の雰囲気はよく出ている。

これはもう少し正確に指示が出せれば、さらにおキャット様に支配され尽くした世界が表現できるはずである。
そう思い、今度は翻訳ツールを使い「cats rule the world」と入力した。これは「猫が支配する世界」という意味だ。
すると今度は、猫が正面を向いているバストアップ画像4枚という、1枚目より遥かに独創性に欠ける絵ができてしまった。

どうやら文法的に正しい指示を出せば良い絵が描けるというわけではないようだ。
これは小声で目を合わせず「とても大きなあんパンがあり私はとても興奮しました」とボソボソ伝えるよりも、片言でも「デカい!アンパン!FUUUU!!」とジェスチャーを交えながら言った方がそのエキサイティングぶりが伝わるのと同じことである。

どうやらこのツールは指示によってできる絵のクオリティに差があるようだ。
つまり、どれだけツールが高機能でも指示がクソだと真価を発揮できないということである。

現在の漫画制作ツールも大変優秀なのだが、使用者の画力によって出来上がるもののクオリティには大きな差が出る。
それと同じようにAIを使っても今度は「指導力」で差が出てしまうということだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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