もしも、あの大作家がTwitter廃人だったら。
本人曰く「最高傑作」。ヘミングウェイがたった6つの言葉で紡いだ物語とは。
たった6つの言葉だけで物語を作ることはできるのか。おそらく、大半の人が「そんなこと、無理に決まってる!」と考えることでしょう。そんな誰もが無理だと決めつけるであろうことを、いとも簡単にやってのけたとされる人物がいます。それはアメリカの「失われた世代」を代表する文豪、アーネスト・ヘミングウェイ。
彼は食事の席で友人たちとこの話題で賭け事になった際、ただ1人「作ってみせる」と断言。その場にあった紙ナプキンに以下の言葉を書いてテーブルに回し、賭け金を総取りしたのです。
For sale:baby shoes, never worn.
(訳:赤ちゃんの靴、売ります。未使用。)
何故、赤ちゃんの靴が未使用のまま、売られるのか。この部分からは、赤ちゃんを失った悲しみを読み取ることができます。「never」というたった1語に深い物語性が込められていることに気がついた読み手は、思わずハッとさせられることでしょう。文章の無駄を極限までそぎ落としたヘミングウェイの小説執筆術は「氷山理論(iceberg theory)」と呼ばれますが、これもまた、「シンプル・イズ・ベスト」を突き詰めた彼だったからこそ書けた作品なのかもしれませんね。
▼そんなヘミングウェイがTwitter廃人だったら?
宮沢賢治が評価されないなんて! 中原中也の厄介なオタク感。
「山羊の歌」や「在りし日の歌」など、繊細で童話的な作品を残した詩人、中原中也。しかし文壇界隈での中也の人物評価はというと、酒を飲んでは周りに喧嘩をふっかけるような酒癖の悪い人物でした。
そんな乱暴者の中也でしたが、愛読書は意外にも宮沢賢治の「春と修羅」。「春と修羅」を何冊も購入しては周囲の友人に配って広めていたといいます。現代では、オタクがSNSなどを通じて自分の好きな作品を人に勧めることを「布教」と呼びますが、中也はその布教活動を通じて宮沢賢治の福音を世に広めようとしていたのですね。
中也が行ったのは布教活動だけではありません。賢治の没後1周年に『宮沢賢治全集』が刊行された際には、推薦文を書いています。この推薦文においても「10年以上の愛読書」と古参アピールをするだけでなく、「刊行された頃に認められなかったのはむしろ不思議なことだ」と賢治が評価されなかったことを疑問に思う旨を語っています。
先述した通り、乱暴者としての一面も持っていた中也でしたが、賢治の作品を愛読し、布教するその姿勢からは、「繊細な文学青年」としての詩人像が浮かび上がってきます。
▼そんな中也がTwitter廃人だったら?
おわりに
いかがでしたか? 「文学史」と聞くと、やや高尚でアカデミックなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、その個々のエピソードをTwitter風に再現してみるだけでもグッと身近に感じられるもの。
ツイ廃を自負する皆さんも、そうでない方も、「もし、過去の作家が現代でSNSをやっていたら……」と妄想を膨らませてみてはいかがでしょうか?
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初出:P+D MAGAZINE(2017/02/02)
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