「タワー積み」の手法で読者の心をわしづかみ!個性が光る【三省堂書店神保町本店】 本屋さんへ行こう!~この本屋さんがおもしろい~
運命を変えた一冊
そんな内田さんも、順風満帆の書店員キャリアを積んできたわけではなかったそうで、
「仕事を辞めようか、悩んでいた時期もありました。」
売り上げを上げろ、返本率を下げろ、という指令の板挟みになり、本を売ることに情熱を傾けられず、悩んで、さまよっていた時代。
そんな時に出会った一冊の本が、内田さんの運命を変えます。
「『がんと向き合って』(上野創著・晶文社)という朝日新聞の記者が書いた闘病記なんです。作者は、自分より若い人。ある人に紹介されて読んだら、もう、空気が一変した。今日があるか明日があるかという命わずかな人の言葉に、自分はなんてちっぽけなことで悩んでいるんだと情けなくなりました。心から励まされ、揺さぶられ、生きることについて、そして書店員として自分にできることは何なのか、基本に立ち返るきっかけをくれた本なんです。」
今や、3000枚以上内田さん作の手書きPOPがあるそうですが、そのPOP作りのきっかけとなった1冊だそうです。
「売れないことの方が、多いんです。次に生かそう。それで良い、と気づいたんです。」
それからというもの、必ず本は1日1冊以上読むようにしているそうですが、
「もどかしいです。それしか読めないのかと。」
むさぼるように読み、受けた感銘を、人に伝えていく。
そこには強い使命感がみなぎっています。
「僕自身、本で救われているひとり。だからこそ、仕事を通じて、本の魅力を伝えていきたいし、絶対に伝わると信じているんです。」
ほとんどの本は、劇的に売り上げがあがるわけではないのが実情ですが、
「種をまき続けることで花開くんです。種をまかないと、花は決して咲かないんですよ。」
一番に内田さんが心がけていることは、著者の思いを伝えたい、ということ。
「POP作りにしても、やっぱり著者にはかなわない。その思いを、熱を、いかに引き継いで、世に広めるか。人を動かすのは、“熱”なんです。」
内田さんにとって本屋とは、という質問を投げかけてみると、
「パワースポット!行けば、力、勇気、元気をもらえる場所。」
との答えが返ってきました。
「書店は宝の山ですよ。訪れる人みんなに、ワクワクしてほしい。本って、人生それ以上だと思うから。人生を変えるような本に、出会えるかも知れない場所だなんて、夢のようだと思いませんか?」
三省堂書店神保町本店のおすすめの歩き方
広さと蔵書数のスケールの大きさは神保町随一である三省堂書店神保町本店。ここでは、まず、
「入り口を入ってすぐの書棚をくまなくチェックして、時代の“今”を見るようにしてください。手にとるようにわかります。」
確かに、売れ筋やベストセラー、イベントとのタイアップなど、新鮮な情報が、ぱっと見回すだけで目に飛び込んできます。
棚の奥へ行けばいくほど、一般書から専門書まで、幅広いラインナップ。
「お客様の心を動かしていきたい。それだけを思って、日々仕事をしています。」
そんな内田さんの情熱が、随所に伝わってくるようなディスプレイもあちこちに仕掛けられています。
中でも特に目立った一冊を発見。
すると、「これ、ウチの現役のアルバイトの著作なんです。」の一言。
スタッフの中に作家が居るとは、驚きです。
「基本何でも応援する社風で。店をあげて、売れるように応援しているんですよ。」
書店員として、一社員として、「良い本」を世に送り出すことに心から情熱を持っていることが伝わってくる内田さんですが、書店員の仕事とは、ずばり何?と伺ってみると、
「つなげること。伝えること。」
シンプルだけれど、奥が深い。
「オンリーワンになるには、どうしたらいいか。いかに地域になくてはならない存在になるか。課題は大きいですが、挑戦し続ける価値が、無限にあるんです。」
穏やかながら、たぎる情熱を感じずにはいられない、一言をいただきました。
内田さんの、書店員という仕事に賭ける想いは、きっとこれからも、多くの人を動かし、本と人との巡り会いを紡ぐに違いないでしょう。
[内田さんの読書プロファイリング]
Q:本を好きになったきっかけは?
幼い頃から、あまり本は読んでこなかったです。特に文学を読んでこなかった。
母の影響でよく読んだのは、ノンフィクション。伝記、図鑑などですね。
Q:現在は文芸を担当されていますが、好きだったのですか?
以前は全然好きでは無くて、昔からフィクションを認められないところがあるんです。ところが、10年前に、初めて文芸の担当になり、考え方が真逆になりました。
想像力のすごさを初めて知ったんですね。文学との出逢いで、「なんでこの本こんなに売れるのかな」と思っていた本への見方も変わりました。
Q:好きな作家は?
ダントツで遠藤周作。訃報に触れたときは、それはショックでした。思い入れが強くて。追悼POPも書きましたし、今でも大好きな作家の一人です。
Q:絶版になっている作品で、読みたいものはありますか?
やはり遠藤周作の作品で、『無鹿』(むしか)。戦国大名・大友宗麟の話しなのですが、遠藤周作の幅広い魅力を堪能させてくれる、最後の短編集です。これは読み継いでいきたいですね。
Q:今まさにおすすめの一冊は?
早見和真『95』(KADOKAWA)。
安藤祐介『不惑のスクラム』(KADOKAWA)。
どちらも、爽やかで熱血な、青春小説です。
青春…、胸が熱くなりますね。
若い時分読んでこなかったので、砂漠に水が浸透するかのように、心に染み渡るんです。
【DATA】
住所:東京都千代田区神田神保町1-1 |
店舗名:三省堂書店神保町本店 |
坪数:約1000坪 |
電話:03(3233)3312 |
営業時間:10:00~20:00 ※大晦日と1月2日・3日は10:00-18:00 |
休日:元日 |
アクセス:地下鉄神保町駅より徒歩3分
JR・地下鉄丸の内線 御茶ノ水駅 徒歩6分 地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 徒歩5分 |
HP: http://www.books-sanseido.co.jp/index.html |
初出:P+D MAGAZINE(2016/04/12)