文学的「今日は何の日?」【2/10~2/16】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
2月10日から始まる1週間を見てみましょう。

2月10日

ギャレット・ヘイウッドが船から転落、波に呑まれる

1965年の今日、バイオレンス小説の大家A.J.クィネル『血の絆』において、アメリカ人青年ギャレット・ヘイウッドが、アフリカ沖を航行中の船から海に転落しました。折からの悪天候で救助も、遺体の発見もできなかったとの知らせが、ニューヨークで暮らす母カースティにもたらされます。しかし遺品の中にある物が入っていなかったことから、彼女は「息子は死んではいない」と確信。周囲の反対を押し切り、すべてをなげうって、息子を探す旅に出ます。ワケありの面々との出逢いと、彼らの協力を得て真相を追うカースティの強さ、逞しさに勇気をもらう一冊です。

20200210
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4102205020/

 

2月11日

カレル・チャペックの『ロボット』がBBCでドラマ化される

1938年の今日、英国放送協会(BBC)で、チェコスロバキア(当時)で最も人気の作家カレル・チャペックの戯曲『ロボット(R.U.R)』がテレビドラマ化、放送されました。「ロボット」の語源ともなったこの作品タイトルは、画家の兄ヨゼフの言葉がヒントとなって生まれたもの。チェコ語で強制労働を意味する「robota(ロボッタ)」が元になったとされています。作中ではそのロボットがすべての労働を担い、働かなくなった人間は指一本動かすことすらできないほど退化してしまいます。そして、反乱を起こしたロボットに支配されるようになりますが……。予言的作品として、今も広く読まれるSFの古典的名作です。

20200211
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003277422/

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2月12日

16歳のジェイン・グレイ、断頭台の露と消える

1554年のこの日、イングランド史上初の女王となったジェイン・グレイが、流血のメアリーことメアリー1世の命により処刑されました。ジェインは母方の祖母がヘンリー8世の妹にあたります。舅の策略によってヘンリー8世の母親の違う3人の子(エドワード6世、メアリー1世、エリザベス1世)の間に割り込まされて王位につきますが、メアリー1世の反撃にあってわずか9日でその座を追われ、ロンドン塔に幽閉されたのち、16歳の若さで斬首刑に処されました。夏目漱石はイギリス留学中にロンドン塔を訪れており、彼女の薄命を悼んで『倫敦塔』を書き上げます。ポール・ドラローシュの絵画『レディ・ジェイン・グレイの処刑』に想を得た、漱石には珍しい幻想的な作品です。

20200212
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003190017/

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2月13日

『ツァラトゥストラ』第1部が現代火星語に翻訳される

2250年のこの日、筒井康隆『火星のツァラトゥストラ』において、火星常識大学教授のカン・トミヅカ氏が『ツァラトゥストラ』第1部の現代火星語への翻訳を完成させます。同月3日に着手して、わずか10日という早業でした。この翻訳版上梓を機に火星植民地でまき起きるニーチェ・ブーム、否ツァラトゥストラ・ブームを描き、軽薄な流行に踊らされる現代社会を一刀両断にする怪作。作中で示される『ツァラトゥストラ』訳文の思いがけない適確さには、誰もが衝撃を受けることでしょう。

20200213
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4150312893/

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2月14日

「山本周五郎の命日以外の何ものでもないっ」

今日2月14日は聖バレンタイン・デー。ですが、文学を愛する私たちは、『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』などの代表作がある時代小説の大家・山本周五郎の命日「周五郎忌」であることも忘れてはなりません。中学生で作家デビューした鈴木るりかの第2作『14歳、明日の時間割』で、帰宅途中に鉢合わせた男子同級生からバレンタインのチョコを届けに来てくれたのか、と聞かれた主人公・星野茜は「バレンタイン? 何それ? 二月十四日は、山本周五郎の命日以外の何ものでもないっ。樅の木でも食っとれっ」と言い返します。本当は好きなんじゃないの? とツッコミを入れたくなる軽妙なやりとり、女子中学生山本周五郎という意外な組み合わせに思わず吹き出しそうになる、楽しい場面です。

20200214
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386524

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2月15日

少年15人を乗せたスルギ号が出港……2年間の冒険が始まる!

『海底二万里』『八十日間世界一周』などの作品で知られるSF作家ジュール・ヴェルヌ『二年間の休暇(十五少年漂流記)』において、1860年のこの日、ニュージーランドのオークランドにあるチェアマン寄宿学校の生徒14人と見習水夫の、少年15人だけを乗せたスルギ号が外洋へ出てしまいました。少年たちは8歳から14歳。この日ニュージーランド一周の航海に出る予定でしたが、出航を待ちきれずに前の晩から船に乗り込んでいたところ、(もやい)が解け、流されてしまったのです。折からの嵐で無人島に漂着する少年たちが知恵と勇気で困難に立ち向かう冒険譚を、子供心にわくわくしながら読んだ方も多いでしょう。今日はその出発の日。あのころに返って読み返してみませんか。

20200215
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4001146037/

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2月16日

サンヴナン精神病院で県知事による視察が行われる

医学者としても知られる作家・加賀乙彦が、自身の留学経験を日本人精神科医ミキオ・コバヤシに託して書き上げた『フランドルの冬』。2月16日、コバヤシが勤務するパドカレ県立サンヴナン精神病院に県知事が視察に訪れ、歓迎パーティが開かれました。そこで医師ミッシェル・クルトンのとった行動は、正気と狂気の間をさまよう医師たちの恐ろしいまでに孤独な姿をあぶり出していきます。「異邦人」であるコバヤシの孤独、戦争帰りのクルトンが抱える闇、そして狂気の世界に踏み込む精神科医たちの深淵を、コバヤシの目を通して描いた同作は、第1回芸術選奨新人賞を受賞しました。

20200216
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352370

 

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初出:P+D MAGAZINE(2020/02/10)

【著者インタビュー】綿矢りさ 『生のみ生のままで』(上・下)/既存の言葉に収まらない女性同士の恋愛を描く
ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第29回