文学的「今日は何の日?」【5/25~5/31】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
5月25日から始まる1週間を見てみましょう。

5月25日

湊川の戦いで楠木正成が足利尊氏・直義に敗れ、弟・正季まさすえと共に自害

建武5年(延元元年)のこの日、摂津国湊川(現在の兵庫県神戸市)で新田義貞・楠木正成らの官軍が足利尊氏・直義軍と激突、合戦となりました。奮戦する官軍でしたが、数に勝る足利軍によって楠木軍と新田軍が分断されて力を失い、最後はわずか73騎にまで追い詰められてしまいます。もはやこれまでと覚悟を決めた正成が、弟・正季に死後に行きたい世界はどこかと尋ねると、正季は「七生までも同じ人間に生まれ変わり、朝敵を滅ぼしたい」と答え、正成も「罪業深い悪念だが、私もそう思う」と応じて、刺し違えて死んだことが『太平記』巻十六に書かれています。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658055

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5月26日

M・アトウッド『くらき目の暗殺者』で、新聞が交通事故に関する疑惑を報じる

ディストピア小説『侍女の物語』で知られるマーガレット・アトウッドが、ブッカー賞とハメット賞を受賞したくらき目の暗殺者』。1945年5月18日、ローラ・チェイスが車で橋から落下し、死亡しました。姉アイリスは「妹は運転が下手だったから」事故だと考えますが、5月26日の《トロント・スター》紙は、交通事故に関する疑惑を独占記事で報じます。死後にSF小説『昏き目の暗殺者』で作家としてデビューし、伝説的作家となったローラですが、彼女は本当に事故死だったのか、小説に登場する恋人たちのモデルは誰なのか……。さまざまな小説ジャンルを取り込んできたアトウッドの集大成的傑作です。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4151200967/

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5月27日

ボブ・ディランのアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』がリリースされる

「偉大なアメリカ歌謡の伝統のなかで新たな詩的表現を創造した」と評価され、2016年に歌手として初めてノーベル文学賞を受賞したボブ・ディラン。彼のセカンド・アルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』が1963年のこの日、リリースされました。収録曲のひとつ『風に吹かれて』は「どれだけの砲弾を発射すれば、武器は永久に廃絶されるのだろう」「人はどれだけの死人を見れば、大勢死に過ぎだと気づくのだろう」との問いかけに、「答えは風に吹かれている」と繰り返すプロテストソングで、ディランの代表作です。アメリカ公民権運動ではテーマソングのように広く歌われたことでも知られています。


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5月28日

佐藤賢一『カルチェ・ラタン』で、新米夜警隊長ドニ・クルパンが容疑者宅を捜索

『傭兵ピエール』などの歴史小説で人気の直木賞作家・佐藤賢一。中世パリの学生街を舞台とした『カルチェ・ラタン』において、主人公の新米夜警隊長ドニ・クルパンは、靴職人ジャックの行方不明事件を捜査していました。失踪だと訴える娘に対し、ジャックは巡礼の旅に出たと証言する弟子。困り果てたドニは、天才的推理力を持つ神学僧ミシェルに相談します。そして1536年5月28日、ミシェルの助言で容疑者宅の捜索に踏み切り、ジャックの死体を発見。しかし事件はこれで終わらず、やがてドニとミシェルは巨大な陰謀に突き当たることに……。ザビエル、デ・ロヨラ、カルヴァンなど、日本でもおなじみの神学僧たちも入り乱れる歴史の迷路カルチェ・ラタンに、あなたも入り込んでみませんか?


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5月29日

宮尾登美子『鬼龍院花子の生涯』、12歳の松恵が政五郎の養女となる

大正から昭和の土佐で、鬼政と恐れられた侠客・鬼龍院政五郎と、愛娘・花子の波乱万丈の生涯を、政五郎の養女・松恵の目を通して描いた、宮尾登美子の傑作長編小説『鬼龍院花子の生涯』。大正7年のこの日、12歳の松恵は正式に政五郎の養女となりました。それから1年半ののちに、政五郎の妾・つるに女児が生まれ、花子と名付けられます。そしてその頃から鬼政の運は傾いていき……。五社英雄により映画化され、松恵を演じた夏目雅子のセリフ「なめたらいかんぜよ」は流行語にもなりました。作者の故郷・高知を舞台に、実父が残した記録や、政五郎のモデルとなった鬼頭良之助の関係者への緻密な取材を経て書き上げられた、宮尾文学の代表作『宮尾登美子電子全集 第3巻』に収められています。


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5月30日

小手毬るい『テルアビブの犬』の主人公ツヨシと愛犬ソラが生まれる

小手毬るいがウィーダの名作『フランダースの犬』へのオマージュとして書いたという、『テルアビブの犬』。日本敗戦の3か月ほど前の1945年5月30日、主人公の少年ツヨシと、のちに彼の愛犬となるソラが誕生しました。戦争で両親を亡くし、廃品回収をする祖父と暮らすツヨシは、虐待により瀕死の重傷を負って捨てられたソラを見つけ、懸命に介抱します。初めて知る穏やかな日々のなかで、ツヨシへの感謝と愛情を抱くソラ。足の悪い祖父に代わり廃品回収のリヤカーを引くツヨシは、やがて「貧富の差のない、理想的で平等な社会」を熱望するようになっていき……。思わぬラストに涙が止まらない一作です。


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5月31日

プーシキンの娘でトルストイ『アンナ・カレーニナ』のモデルといわれるマリアが誕生

1832年5月31日、ロシアの作家アレクサンドル・プーシキンと妻ナターリアの間に、長女マリアが誕生します。母ナターリアはモスクワ社交界の花、並ぶ者のない美女でしたが、その美貌ゆえにフランス人士官ジョルジュ・ダンテスに言い寄られ、夫プーシキンは彼との決闘により落命するという悲劇を招いています。マリアもまた、母譲りの美貌で知られていました。ロシア文学の最高傑作のひとつである『アンナ・カレーニナ』(レフ・トルストイ作)の主人公は、このマリアがモデルであるといわれています。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/05/25)

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