大どんでん返し

大どんでん返し第16回
第16話 澤村伊智「井村健吾の話」 「禿げたな」「黙れメタボ」振り返ると男性二人が、グラスを片手に笑い合っていた。禿げた方の名札には「木元浩平」、太った方には「斎藤琢磨」と書かれている。名札を見なければ誰が誰だか分からない。僕は斎藤くんに訊ねた。「元気?」「言うなよ。煙草止めたらこのザマだ」「俺も」と木元くん。
大どんでん返し第15回
第15話 澤村伊智「令和のショートショート」 浮気がバレた男は妻から離婚届を突き付けられ、多額の慰謝料を請求された。男は妻を殺すことにした。同時に、男は同僚も殺すことにした。入社して二十年近く、男は事あるごとに同僚に差を付けられ、先日も社内コンペで完敗を喫したからだ。男と妻の間には息子が一人いたが、独り立ちするまで養うだけの蓄えはあった。
大どんでん返し第14話
第14話 森 晶麿「すずらんの妻」 「なんでもっと早く帰ってこんかったん?」すずらんの花が咲き乱れる庭先に立ち尽くしていると、縁側から鋭い声が降ってきた。美那の妹だ。五年前はまだあどけなさの残る高校生だった。
大どんでん返し第13話
第13話 伊吹亜門「或る告白」 ある男を殺してやろうと思ったのがそもそもの始まりでした。いえいえ、お笑いになってはいけません。本当なのです。その男は古くからの知り合いでして、詳しい身上は伏せますが、兎に角私にとっては道義上許せない出来事があり、必ずこの手で息の根を止めてやるのだと固く心に誓ったのです。
大どんでん返し第12回
第12話 芦花公園「幽霊屋敷」 はい、来ました、ゆがみんオカルトちゃんねる。今日のゲストは林檎坂46のゆみみ。豪華ですね〜。おっ、霊能者の霧島葉子も来てくれた。中野で一番有名な心霊スポットということですからね、気合も入ります。
大どんでん返し第11話
第11話 織守きょうや「侵入者」 好みのタイプの女が通り過ぎたので、後をつけることにした。年齢は、三十代前半といったところか。女は、駅とは反対方向に向かって歩いている。時間帯を考えると、仕事を終え、自宅へ帰るところだろう。女は途中でコンビニに寄った。レジ袋が透けて、缶ビール一本と、つまみの小袋が見えている。
第10話 小川 哲「矜持」 「記事を書いたのはお前だな」タクシーを降りたところで、背後から男にそう声をかけられた。深夜まで続いた入稿作業を終えて、会社から帰宅したところだった。僕は後ろを振り返った。コートを着た体の大きい男が立っていた。
大どんでん返し第9話
 侍女が恭しく部屋の清掃の許可を求めた。姿見の前に立つ男は一瞥もくれずに促す。掃除などどうでもよかった。頭の中は今なお続く戦争の始末と、自身の進退でいっぱいであった。
大どんでん返しスペシャル第8話
第8話藤崎 翔「夢の小説」  都内の一等地に建つ豪邸。その客間で、家の主である若手作家と、担当の編集者が打ち合わせをしている。その作家は、公募の新人文学賞を二十代半ばで獲って華
大どんでん返し第7回
竹本健治「訪ねてきた女」 吾平という者、大の酒好きで、その日も寄合の酒宴に与り、したたかに呑んで、ようやく帰途についたのはとっぷりと日も暮れた頃だった。
大どんでん返し第6回
乗代雄介「客人の思惑」 別荘地をさらに離れた山の麓に、その別邸はある。主人が九月に急逝して以来、傷心の夫人は都内の邸宅から思い出多いこちらへ引っ込んで暮らしている。
大どんでん返しspecial
浅倉秋成「イズカからユウトへ」【イズカじゃなくてシズカへ(笑)】メール読んだよ。てかなんでメール? 普通にスマホのメッセージアプリ使えばよくね……って思ったけど、そういえばシズカはスマホよりパソコンのほうが文字打ちやすいって言ってたな。
大どんでん返しspecial
浅倉秋成「川縁にて」 やがて東京湾へと続く真間川の川岸を下るやうにして二三里ほど歩くと、絶景と評すには些か地味なれど、梨畑が割れて遮るものなく青空の望める清々しい場所へと辿り着く。突き抜ける空から注ぐ陽の光が水面を飴細工のやうに複雑に煌めかせ、透き通る水底の小さな砂利のひと粒ひと粒まであらはにする。おれはその場で素足になり、此所に座れと千代を促す。
大どんでん返し第3話
一穂ミチ「恋に落ちたら」 恥を忍んで言うなら、わたしは彼氏に飢えていた。もう三年以上、彼氏ができなかった。原因が自分にあるのは重々承知だけど、それを直す、というか譲ることはできなかった。わたしという人間の本質に関わる部分だから。「いや、うまいよまじで」
大どんでん返しspecial第2回
阿津川辰海「黒い雲」 高枝切り鋏を雲に差し込んで、素早く両腕を動かす。今日は曇り空で、高所作業でも汗をだらだらかかなくて済む。ぼくの近くには空にぷかぷか浮かんだゴンドラが二つあり、片方には霧吹きを持った男が、もう片方には袋を構えた男が立っている。二人とも仕事仲間だ。
大どんでん返しspecial第1話
新釈『蜘蛛の糸』 一生懸命のぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池は、今ではもう暗の底に何時の間にかかくれて居ります。それからあのぼんやり光っている恐ろしい針の山も、足の下になってしまいました。この分でのぼって行けば、地獄からぬけ出すのも、存外わけがないかもしれません。
◎編集者コラム◎ 『超短編! 大どんでん返し』編/小学館文庫編集部 連載時は、風間勇人さんに挿絵を描いていただきました。お気に入り、たくさんあるですが少しだけご紹介します。