J・グリシャムの新作小説は裁判官汚職の内部告発がテーマ・今アメリカで一番売れている本は?|ブックレビューfromNY【第14回】

捜査に迫る危険

捜査が行き詰っている時、捜査官ヒューゴの携帯電話にカジノの従業員を名乗る男から情報提供したいという連絡があった。ヒューゴとレイシーは男の言うとおり夜遅くカジノの近くに出かけたが、男は暗がりで話しかけてきたものの、大した話もせず立ち去ってしまった。オフィスに戻る途中、レイシーの車はセンターラインを越えてスピードを出してきた対向のトラックに衝突された。事故直前、シートベルトがはまらないと言っていた助手席のヒューゴはエアーバッグも開かず死亡、レイシーは(エアーバッグは開いたものの)意識不明で病院に搬送された。現場から携帯電話とiPadがなくなっていたこと、助手席のシートベルトが留まらず、エアーバッグが開かなかったこと、事故を起こしたトラックはアラバマ州からの盗難車で偽のフロリダ・ナンバーのプレートがつけられ、乗り捨てられたトラックの内部に運転手の姿がなかったこと、レイシーが事故直後に2人の人間が車の中を探っていたのを見ていたこと、などを考え合わせると、単なる事故とは思えなかった。呼び出しは罠で、BJCの捜査に対するマフィアからの警告と考えられた。

判事の不正行為を捜査するBJCはマフィアの捜査が目的ではなかったが、判事の不正行為がマフィアの違法行為と関連しているため、マフィアからのますますの妨害が予測され、拳銃を持たないBJC捜査官だけで捜査を続けることは危険すぎた。また、BJCは先住民族の居留地における捜査権がなく、カジノの違法行為やヒューゴの死に関して、捜査のために居留地に入ることはできなかった。居留地内で捜査権があるのはFBIだ。ついにBJCディレクターのガイスマーはFBIに協力を頼むことにした。しかし、人手不足のFBIにとって当面の優先課題はテロや不法移民、麻薬問題などで、最初はあまり興味を示さなかった。

ところが、そんな時にグレッグが突然行方不明になり、マフィアに誘拐されたか殺された可能性が高いと判断される事態になった。さすがにFBIフロリダ・オフィスは事の重大性を認識、BJCに協力し始める。

レイシーとヒューゴを襲った事故直後の深夜、居留地近くのカントリー・ストアの防犯カメラに2人の男が映っていた。時間や場所、状況から事故に関係しているとみられた。FBIは映像から2人を特定、彼らの自供からヒューゴの死が殺人事件であることが明らかになっていった。この2人はFBIとの取引に応じ検察側の証人となる事に同意した。その証言を突破口として、ヴォン・ドゥボーズとその幹部、組織、居留地のカジノに対するFBIの大がかりな監視が始まり、徐々に関係者たちが逮捕されていった。

――というのが小説の大まかな流れだが、このコラムの読者は次のような疑問を持つことだろう。

●内部告発者《モグラ》の正体は?
●行方不明のグレッグはどうなったのか?
●17年前のサン・ラズコとジュニア・メイスの妻の殺人事件の真相は?
●タパコラ居留地のカジノとヴォン・ドゥボーズのマフィア組織で行われていた不正・違法行為の全容は? 
●汚職判事クローディア・マックドーバーはどうなったか?
●そして内部告発をした《モグラ》、グレッグ、仲介者の3人は最終的に報奨金をもらうことができたか?

答えは、小説を読んでのお楽しみということで。

グリシャムは一貫して小説で社会正義を掲げ、司法の秩序のなかで不正と戦ってきた。その姿勢はこの新作でも貫かれている。半面、登場人物たちのジェンダーや人種に関しては現代社会の多様性をより反映し、この小説では新しい人物像を作り上げている。主人公の弁護士捜査官が白人女性で、相棒の弁護士は黒人男性の元フットボール花形選手、そして悪徳判事は白人女性であるというところに、今までのグリシャムの小説にはない新鮮さを感じる読者も多いことだろう。


佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。
1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。
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初出:P+D MAGAZINE(2017/01/11)

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