連載小説

◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第2回 後編
       六  四月二十九日、丸屋勝三郎(まるやかつさぶろう)が新たに摺り上げた銅版画を持ってきた。御茶ノ水の景色を描いた、縦八寸四分(約二十五センチ)、横一尺二寸五分(約三十七センチ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第36回
      6  接見を終え、差し入れを担当留置官に預けて足立南署を出ると、署の前の歩道にカメラを持った人が大勢いた。脚立も並んでいる。プロの報道カメラマンだ。道路を挟んだ向かいにもいる。  まだ午後
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第2回 前編
       四  天明四年(一七八四)三月二十四日、若年寄の田沼山城守意知(やましろのかみおきとも)が江戸城内で佐野善左衛門(ぜんざえもん)に斬られ、二日後死去した。その後、父田沼主殿頭
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第35回
「あとで担当さんからも言われると思いますが、検察庁での検察官の取調べです。十六年前も、経験されたと思いますが」 「あれか……検事調べってやつ? それがどうしたの」 「ここの取調室とは環境が変わります。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第34回
 ファイルから、針なしのステープラーでA4のプリントを数枚綴(と)じた書面を取り出した。表紙には「身体を拘束されている方に」と書かれている。東京三弁護士会刑事弁護センターがひな型を作った資料だ。  表
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第33回
     5 「ありがとうございます。参考になります。私から、いくつか、確認のための質問をさせてもらっていいですか?」  起訴前の弁護であっても、弁護方針は、起訴された場合も想定し、公判を見据えて検討
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第1回 後編
       二    四月六日夕、丸屋勝三郎がまたやって来た。三日前、佐野善左衛門が評定所で切腹を言い渡され、牢屋敷に戻された後、揚屋の前庭で切腹したのだという。評定所では、佐野
電車のおじさん 辛酸なめ子 第1回 
 世の中にはいいおじさんと悪いおじさんがいる。OLの玉恵は、最近そんなことに気付きました。  毎朝、ラッシュの通勤電車に乗っていると、おじさんたちに囲まれ、体の一部を密着させることになります。殺伐とし
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第32回
 増山は非常に重要な話をしている。志鶴はきちんとメモに残した。 「だから……行ってない、って答えちゃったんだよね。噓ついた俺も悪かったのかもしれないけど──ビビるじゃん。二人目に殺された子が、星栄中の
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第1回 前編
       一    いつの間にか闇が降りていた。六ツを報せる芝(しば)切通しの鐘も聞こえなかった。加瀬屋伝次郎(かせやでんじろう)は、手さぐりで戸袋の奥から埃(ほこり)まみれの
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第31回
「お話を聞かせてもらう前に、一つ、お願いしたいことがあります」  クリアファイルから一枚の紙を取り出し、増山に向けアクリル板につけた。  大きな文字だけがプリントされたA4紙だ。タイトルは「接見室での
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第30回
 増山は動揺している。つまり、志鶴の話を理解しているということだ。  自分は今、依頼人を脅かしている。良心の呵責(かしゃく)が胸を刺す。弁護人の誠実義務について田口に大上段から論ずる資格があるだろうか
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第29回
「──昨日もお話ししましたが、お母様にはしばらく会えません」 「何で?」 「警察が認めないからです」 「何だよー」目を伏せ、口をゆがめた。「何て言ってた、昨日?」  増山文子から言付かった言葉を彼の前
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第28回
      3  志鶴は現在、民事と刑事、合わせて三十近い案件を抱えている。  訴訟案件ばかりでなく、また、他の弁護士と共同受任しているものもあったが、時間はいくらあっても足りない。本当は刑事事件に専
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第27回
      2 「虚偽自白?」森元逸美(もりもといつみ)が言った。  大きな作業デスクに椅子を配した共有スペースでの、朝一番の打ち合わせ。メインとなるのは増山の案件だ。 「ええ」志鶴は答える。「否認事
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第26回
『たしかに、われわれも社会の一員として、今回のような事件を防ぐにはどうしたらいいか、ということも考える必要がありそうですね。天宮さん、ありがとうございます』  キャスターが頭を下げ、カメラに向き直る。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第25回
        1  男は片手をパンツのポケットに突っ込み、もう片方の手で煙草(タバコ)を喫(す)っている。その映像に、女性のものものしいナレーションがかぶさる。 『先月十一日の日曜日。中学校の校庭で
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第24回
 番組が始まる。トップニュースはやはり増山淳彦の事件だった。これまでの報道をなぞったあとで、この番組では、独自取材をして得た一般人のコメントを映し始めた。  一人目は、近所に住むという中年男性。路上で