文学的「今日は何の日?」【8/31~9/6】
あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
8月31日から始まる1週間を見てみましょう。
8月31日
校長先生とふたりだけの卒業式が行われる――山口瞳『居酒屋兆治』
大手電機メーカーを退職して、妻と共にモツ焼き屋を営む兆治と、その店に集う人々を連作的に描く、山口瞳の長編小説『居酒屋兆治』。第8話「春のかりがね」は、地元のタクシー運転手・下平寛の物語です。小学校の卒業式の日、下平は卒業証書の入っていない空の筒を渡され、校長の相場から「私は教育者として、きみを卒業させるわけにいかない」と言われました。下平は小学校時代、半分も登校していなかったのです。中学1年の夏休みが終わるまで毎晩2時間、相場の家で勉強を続け、国語と算数を1年生からそっくりやり直した下平。8月31日、相場と下平、2人だけの卒業式がひっそりと行われました。毎年春が来ると、空っぽの筒を見た時のショックを思い出すという、切なくあたたかな物語です。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352215
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9月1日
宮沢賢治の没後に発表された作品『風の又三郎』のはじまりの日
「どっどどどどうど どどうど どどう」という書き出しが強烈な印象を与える『風の又三郎』は、強い風が吹いていた9月1日に、変てこな鼠いろのマントを着た、ちょっと変わった姿の転校生・高田三郎がやってくるところから始まります。先生は三郎をモリブデン鉱山の技師の子と説明しますが、生徒たちは風のように現れ、そして去っていった三郎を、伝説の風の精「風の又三郎」だと思うのでした。実はこの作品、作者・宮沢賢治の没後に発表されたものです。さらに発表後に新たに見つかった原稿もあるため、出版社によって三郎の服装や生徒の顔ぶれなどが少しずつ違っているのです。いくつか読み比べてみると思わぬ発見があるかもしれません。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101092044/
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003107624/
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9月2日
『時代屋の女房』の主人公が買い取ったトランクに入っていた切符の日付
東京は大井町の骨董店・時代屋を舞台に、男女の淡く切ない恋情を描く、村松友視の直木賞受賞作『時代屋の女房』。5年前の夏の盛り、銀色の日傘をくるくる回しながら子猫のアブサンとふらっとやってきて、時代屋の女房として居ついてしまった真弓は、今は4度目の家出中です。そんななか、時代屋の主・安は、前日クリーニング屋の今井から買い取った大正時代のトランクの内側のポケットから、「上野―東京 品川」と書かれ、昭和9年9月2日の刻印がある切符を見つけました。「今井さんの過去の時間まで引き取っちゃわるいから」と切符を返しに行った安ですが、今井はトランクを買い戻したいと言い出します。あの切符にはどのような過去が秘められているのでしょうか。
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352362
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9月3日
菅原孝標女、父の任期が終わり上総国を出て京に向かう――『更級日記』
平安時代の日記文学『更級日記』の作者として名高い
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658026
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9月4日
ビアトリクス・ポター、病気の少年のために「ピーターラビットのおはなし」を書く
今日は世界でもっとも有名なうさぎ、ピーターラビットの誕生日です。というのも、作者のビアトリクス・ポターが、元家庭教師アニー・ムーアの息子ノエルに宛てて、「ピーターラビット」の絵手紙を書いたのが、1893年の9月4日なのです。当時ノエルは病気で、彼を元気づけようと書いたものでした。アニーの勧めもありこの絵手紙を絵本にして出版しようと考えるようになった作者ですが、持ち込んでは断られる日が続きます。1901年にようやく自費出版で250部を出したところ注目されるようになり、翌年、フレデリック・ウォーン社から『ピーターラビットのおはなし』として世に出ました。今では世界中で愛されるピーターラビットにこんな苦労があったとは、意外ですね。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4834084809/
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9月5日
交通事故で片足を切断した女優・叶世久美子が退院――平野啓一郎『かたちだけの愛』
東京・南青山に事務所を構えるプロダクト・デザイナーの
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4122058414/
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9月6日
伊勢神宮に向かう舟の中で松尾芭蕉が『奥の細道』最後の一句を詠む
元禄2年3月27日に千住から始まった、俳人・松尾芭蕉の『奥の細道』の旅も、出発から5か月ほどがたち、敦賀で合流した門人・八十村路通を伴って大垣にたどり着きます。北陸で体調を崩し、伊勢の知人のもとで療養していた河合曽良も戻り、近藤如行を中心とする大垣やその近在の門人たちの歓迎を受けました。この年は20年ごとに行われる伊勢神宮の式年遷宮の年に当たっており、9月6日、芭蕉は遷宮式を拝もうと舟で伊勢に向かいます。この舟の中で詠まれたのが、結びの句「蛤のふたみに
出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658071
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