文学的「今日は何の日?」【10/5~10/11】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
10月5日から始まる1週間を見てみましょう。

10月5日

セシルの父レエモンがアンヌと結婚する日――F・サガン『悲しみよこんにちは』

1954年、当時18歳のフランソワーズ・サガンが世に放った衝撃のデビュー作『悲しみよこんにちは』。17歳の少女セシルは、コート・ダジュールの貸別荘で、寡夫の父レエモンとその愛人エルザと共にバカンスを過ごしていました。そこに亡き母の友人で、セシルとも親しいアンヌが合流。美しく、優雅で、知性豊かなアンヌに心を奪われたレエモンは、エルザと別れ、アンヌと結婚すると言い出します。挙式予定は10月5日。結婚宣言後、まるで母親のように、セシルの学業や恋愛に口を出すようになったアンヌへの反発と父への独占欲から、自分の恋人シリルとエルザを焚きつけ、2人の仲を裂こうとするセシルですが……。少女のもつ残酷さ、微妙な心理を巧みに描いた、世界的ベストセラーです。


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10月6日

将棋好きで鳴らした作家・山口瞳、プロ棋士・二上達也から指導対局を受ける

小説『居酒屋兆治』や、エッセイ『男性自身』などで絶大な人気を誇った山口瞳は、大の将棋好きで知られています。その山口が、新聞社主催のプロのトーナメント戦の前哨戦として、プロ棋士による指導対局を受けることになったのは1969年10月6日。相手は二上達也八段(当時)、飛車落ちで持ち時間は1時間。終盤に失着があり惜敗した山口ですが、ここから錚々たる顔ぶれのプロ棋士10名と飛車落ちでの対局を行い、ついには飛車落ち戦における新定跡「瞳流位取り」を編み出します。3勝6敗1分の好成績を挙げたこの十番勝負は『血涙十番勝負』にまとめられ、さらに続編『続血涙十番勝負』を生みました。指南書として、読み物として、将棋好きなら一度は手に取りたい名作です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352318


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352320

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10月7日

作者の分身といわれるランドルフ・カーター、姿を消す――クトゥルフ神話

クトゥルフ神話において、創始者H・P・ラヴクラフトの分身と言われるのが、『ランドルフ・カーターの陳述』『名状しがたいもの』などの作品に登場する神秘学者ランドルフ・カーターです。1933年に発表されたラヴクラフトとエドガー・ホフマン・プライスの共作『銀の鍵の門を越えて』においてカーターは、1928年10月7日、家に伝わる大きな銀の鍵と共に姿を消しました。失踪から4年後、4人の相続人がカーター邸に集い、財産分与の調停を行います。そのうちの1人であるチャンドラプトゥラ師は、失踪後のカーターの行動を突き止めたと語り始めました。それは、とても現実のこととは思われない、世にも恐ろしく、奇怪な物語だったのです……。


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10月8日

イギリス留学に向かう夏目漱石、船中から妻・鏡子に手紙を書く

日本近代文学を代表する作家・夏目漱石は、明治33年に文部省から英語研究のため2年間のイギリス留学を命じられ、9月に横浜港を出てインド経由でイギリスに向かいました。4年前に結婚した妻・鏡子を日本に残しての旅立ちです。10月8日、エーデン(イエメンのアデン港を指す)に向かう船の中で、漱石は鏡子への手紙を書いていますが、それによると早くも西洋料理に飽き飽きの様子。また海岸の気候が合わないためか目がくぼむとぼやいたりもしています。ここから船は紅海を通って地中海に抜けてゆきます。漱石がパリ経由でロンドンに到着するのは、10月28日のことでした。


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10月9日

ヴァイキングがアメリカ大陸に到達したとされる「レイフ・エリクソンの日」

10月9日はアメリカで「レイフ・エリクソンの日」と呼ばれます。西暦1000年頃にヴァイキング〈赤毛のエイリーク〉の息子であるレイヴ・エイリークソン(レイフ・エリクソン)が、ヨーロッパ人として初めてアメリカ大陸に渡った日とされるためです。アイスランドの家を処分してグリーンランドに渡ったエイリーク。レイヴは父の後を船で追います。途中で何度か陸地が見えますが、目印となる高い山がないのでまだグリーンランドではないと考え、どんどん先に進んでいきました。ついには葡萄ヴィンの木の茂る豊かな土地に至り、そこを「ヴィンランド」と名づけたことが『赤毛のエイリークのサガ』に記されています。ヴィンランドは、現在のカナダのニュー・ファンドランド島であると考えられています。


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10月10日

高名な学者・富田博士の妻が、邸裏の線路で轢死――江戸川乱歩『一枚の切符』

1923年に発表された短編『一枚の切符』は、日本推理小説の父・江戸川乱歩の最も古い作品のひとつです。大正XX年10月10日午前4時、高名な学者である富田博士の邸裏の線路で1人の女性が轢死。富田博士の妻でした。遺体が夫に宛てた遺書を懐中していたことから、覚悟の自殺と見られましたが、刑事・黒田清太郎は富田博士が妻を毒殺し、線路まで運んで列車に轢かせたと推理します。しかし、富田博士を尊敬する大学生・左右田五郎は、現場で拾った一枚の切符から博士の無罪を確信したといい、新聞紙上に「富田博士の無罪を証明す」と題した長文を寄稿します。果たして左右田の推理とは!?


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10月11日

ジュリアード音楽院でマリア・カラスの公開レッスン「マスター・クラス」が開講

20世紀を代表する歌姫として、今も広く愛されるソプラノ歌手マリア・カラス。1971年10月11日から翌年3月16日まで、カラスはニューヨークの名門音楽大学・ジュリアード音楽院で、公開レッスン「マスター・クラス」を行いました。書籍化され、またCD化もされているこの講義そのものを題材に、カラスの芸術論、2人の男性との愛憎劇、そして激しい生き様を描いたのが、アメリカの劇作家テレンス・マクナリーの戯曲『マスター・クラス』です。同作は1996年にトニー賞演劇作品賞を受賞、日本では1996年10月に黒柳徹子が主演し、銀座セゾン劇場で初演されました。マクナリーは、2020年3月24日に新型コロナウィルス感染による合併症で亡くなっています。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/10/05)

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