夏川草介

始まりの木
「諸君、旅の準備をしたまえ」  我ながら、少し不思議な物語を書いた。変わり者の民俗学者とその教え子が日本各地を旅する物語である。格別奇をてらったわけではない。コロナ騒ぎでほとんど病院を離れられない腹い
夏川草介の新刊『始まりの木』 第1話まるごとためし読み!
第一話 寄り道  九月の弘前は、いまだ夏の名残りを濃厚に残していた。  時候はすでに秋の入り口だというのに、照りつける日差しはまるっきり真夏のそれで、駅のホームに光と影の濃厚な陰影を刻みつけていた。
▽▷△超短編!大どんでん返し▼▶︎▲ 夏川草介「不運な患者」
 広い廊下をいくつもの白衣が足早に通り過ぎていく。壮年の男性、若い女医、明らかに研修医らしき青年……、次々と吸い込まれていく先は、廊下の突き当りにある大きなドアだ。頭上の「手術中」と書かれた表示灯は、
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人は生死の境界線をも越えた無数の繋がりの中で生きている    長野県で地域医療に従事する医師である夏川草介は、2009年に様々な患者と向き合う内科医の姿を描いた『神様のカルテ』で第10回小学
思い出の味 ◈ 夏川草介
 その老人は、一言で言えば、大変な患者であった。薬は勝手にやめる。肝臓が悪いのに大酒を飲む。外来は連絡なしで休むし、電話をすると「うるせえ」と怒鳴り声を上げる。私とて医師である前に人間であるから、時と
◇自著を語る◇  夏川草介『新章  神様のカルテ』
 十年が過ぎた。  それが、本書を書き上げたときの最初の感慨であった。十年前『神様のカルテ』第一巻を上梓して以来、2巻、3巻、0巻の順に進んで、いつのまにやらずいぶんな月日を勘定したことになるのだが、
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 民俗学を学ぶ大学院生の藤崎千佳と、その師・古屋神寺郎が日本各地を巡りながら出会う"物語"を小誌で発表している夏川草介さん。「寄り道」「七色」「始まりの木」「同行二人」と四話が完成し、現在は来年発表予