三浦綾子

許し、許されることの意味を教えてくれる

 名作『氷点』の、朝日新聞一千万円懸賞小説入選から五十年を記念して編まれたエッセイ集の文庫化。第一章には、応募にいたる経緯や、新聞連載中の読者からの反響、自身が行った講演の模様など、『氷点』にまつわる文章を収録。新聞連載中に発表されたものもあり、当時の作者の息遣いが伝わってくるようである。また、二人三脚で作品を作りだしてきた夫・光世氏の当時の日記を公開。さらにその日記について行われた特別インタビューを通して、執筆時の二人の生活ぶり、入選までの様子など、名作誕生のエピソードを伝える。  第二章には、『積木の箱』『泥流地帯』など他の作品への思い、療養中に出会った短歌との関わり、支えてくれた忘れ得ぬ人たちのことを綴ったものを収めている。キリスト者であり、作家である三浦綾子を形作ってきた多くの物事が、愛すべきものとして浮かび上がる。 「私はね、人間って『ごめんなさい』と神様にも人にもいえる。自分が許してもらわなければならない存在だと知ることが大切だと思うの」  人間誰しもが持つ弱さ、知らず知らずのうちに犯してしまっている罪。許し、許されることの意味をそっと教えてくれる、優しさに満ちた一冊。

自我の構図
著/三浦綾子発売日:2016-04-06

人は人を真に愛することができるのか——。

 高校教師の南慎一郎は、妻子がありながら、同僚である藤島の妻・美枝子に心惹かれている。美術教師の藤島から手ほどきを受け、美枝子をモデルに描いた絵が日展初出品にもかかわらず協会賞を受賞。同時に美枝子を描いていた藤島の絵は落選となっていた。それから一年、一緒に出かけた峡谷で藤島が謎の死を遂げる。不慮の事故か、他殺が、自殺か。その死に関して嫌疑をかけられる慎一郎。やがて、美枝子、慎一郎の妻・由紀、姪の雅子らを含めたそれぞれの人生が絡み合い、思わぬ方向へと動き出していく。  藤島はなぜ死ななければならなかったのか。果たして、人は人を真に愛することができるのか。嫉妬、疑念、罪、欲、エゴイズム。良識を持って誠実に生きているような者の内にも巣くう不条理さや身勝手さ。人間の本質を鋭く浮かび上がらせた問題作。

愛の鬼才
著/三浦綾子発売日:2015-09-08

神を愛し、ひたすら人を愛した男の軌跡。

 人のため、伝道のためにその身を尽くした西村久蔵。神に愛され、神を愛し、そして人をひたすら愛したその生涯を、自らも久蔵の大きな愛に導かれた三浦綾子が辿った感動の伝記小説。  明治三十一年小樽に生まれ、札幌で育った久蔵は、中学時代にキリスト教と出会い、数えで十八歳のときに受洗する。その後、札幌商業学校の教師として生徒たちと真剣に向き合い、創業した洋菓子店ニシムラでは事業主として多くの人たちに働く場を提供、頼ってくる者はどんな人でも拒むことなくいつでも大きな懐に招きいれた。「人の世話をするならば、とことんまでするべきだ。九十九パーセントではなく百パーセントするべきだ」。  キリスト者でありながら、戦争に反対せず招集に応じて戦地に赴いた身を悔やみ、戦後は会社を抱えながら、教会への奉仕、伝道、病気見舞い、さらには引き揚者のための農村建設へと精力的に取り組んでいくが……。  よく泣き、よく叱り、よく怒りもした。しかし、裏切りにあっても人を憎むことはなく、人を信じ続けた。なぜ、そんなにも深い愛を注ぎ続けられるのか。その大きさ、暖かさは、時を経ても多くの者の心を優しく包む。

愛と信仰を描いた作家による珠玉のエッセイ

 家族や親しい人たち、尊敬する師や元の教え子について。生涯暮らした旭川のこと。身の回りのことを書きながら、いつの間にか著者・三浦綾子の思いは、人間誰持つが持つであろう悩みや至らなさに話が及んでいきます。著者の人柄と信仰そのままに、温かく真摯な視点で語られるエッセイは、今もそこに三浦さんが健在であるかのようにわたしたちの心に語りかけます。 〈道徳と宗教のカテゴリーはちがう。そのちがいのあることを知らない親や教育者たちがあまりにも多すぎる。「不安」にかられ「絶望」に陥る人間が多い世の中なのだ。「不安」な者には「安心」を、「絶望」している者には「希望」を与えなければならない。「不安」や「絶望」は、道徳の力の及ばぬ問題なのだ〉  わたしたちにより良い人生への気づきをメッセージにして送り続ける、三浦綾子さんと出会ってください。  数多くの新聞や雑誌に掲載されながら、これまで単行本に収録されることのなかったエッセイを集め、生誕90周年記念出版として刊行された単行本の、待望の文庫化です。

 知らぬ間に麦畑に紛れ込み、はびこっていく毒麦のように、容赦なく人々の心をむしばんでゆく悪意の種子。その種子を蒔くのは、生まれついて悪しき人々なのか、あるいは無垢と見える我々自身なのか。 凄惨なまでに人間の弱さ、醜さを描き続け、血を流すような痛みの中で読者に人間の営為と神の愛を問い続けた三浦綾子。父の不倫に端を発した両親の別居で、徐々に孤独の淵に追いつめられていく少年の姿を描いた表題作の他に、作家活動中期の短編『尾灯』『喪失』『貝殻』『壁の声』を収録。三浦綾子の問いかける声は、今も我々の生きる糧となる。

 キリスト教徒としての愛と許しのまなざしで、救いがたく弱い人間の生を見据え続けた三浦綾子。何気ない日常の中に垣間見える、底知れぬ闇を抱えた人間の弱さを描き出した作品群は、時を経てもいささかも色あせることはない。 平穏な家庭に忍び込んでくる死の影を背負った女の息遣いに、家族の信頼と幸福がもろくも崩れ去っていく姿を描いた表題作『死の彼方までも』の他に、『赤い帽子』『足跡の消えた女』『逃亡』を収録。 作家活動の最盛期にあった作者が、長編執筆のかたわらで、慈しむように世に送り出した珠玉のような傑作中短編集。

今は亡き愛の作家が遺した感動の言葉

 一九九九年十月、五十余年にわたる闘病生活の末に逝った三浦綾子。死の床で「私はまだ、死ぬという大切な仕事がある」という言葉を遺して。 言葉──人と関わりあうための重要な手段。そこに、伝えたい気持ちと受けとめる謙虚な心とが美しく調和したとき、言葉は「言葉」たり得るのではないでしょうか。 この本は、著者が日常の中でそのような「言葉」に接したときの深い思いを、時には感動し、時に自戒の念をこめて、思い出とともに綴った心にしみるエッセイ集です。

自己中心に生きがちな現代人へ「夫婦・親子」の真のあり方。

 夫婦や親子の愛のあり方、あるいは真実に生きることの大切さを、著者に届いた手紙に対する返信の形をとりながら読者に語りかける三浦綾子のエッセイ集。誰もが自己中心に生きていきがちな病める現代への警告をこめて、それでも悩める人々と共に心の在り方を考える、優しい愛の手紙。伴侶に、家族に、隣人に、自分自身に葛藤する人たちへ、生の視点を変えてみる手がかりや、いくつもの挿話を挟みながら、誠実な言葉で向きあっていく。

初代女子学院院長を務めた矢嶋楫子の波乱万丈の生涯。

 "厳しい明治の世、熊本の旧家に生まれた矢嶋かつは、酒乱の夫に再三生命の危機にさらされ、自分から離縁を言い渡す。当時の風潮に反するかつの行いに世間も身内も冷たく、三人の子を置いて単身東京へ行くことに。船旅の途中自らに「楫子」と命名し、強い意志で教師を志す楫子だったが、十歳近くも年下の妻子ある書生との恋愛、出産を経て、人の""弱さ""を痛感する。そして出会ったのがキリスト教だった。"

不遇な少女の洗礼までを語る三浦文学の名作

 北海道・旭川。浜野清美は母子家庭に育った。いじめにあい、大人への不信も募るなか、友達の事故死を目撃したのを黙っていたことや、母の愛人から弄ばれたことなどから清美は暗く無口な子となってゆく。だが、出生の秘密とともに知った信仰心篤い叔母の自分に対する深い愛情や、一人の少年との出会いにより、いつしか心の中に明るい光がともってゆく。……不遇な少女が、信仰に目覚め、23歳で洗礼を受けるまでの心の軌跡を綴る。

激動の時代を描く三浦綾子の最新長編小説

 昭和16年、思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で竜太は、7か月の独房生活を送る。絶望の淵から立ち直った竜太に、芳子との結婚の直前、召集の赤紙が届く。入隊、そして20年8月15日、満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口をつきつけられる。思わぬ人物に助けられやっとの思いで祖国の土を踏む。再会した竜太と芳子の幸せな戦後に、あの黒い影が消えるのはいつ……過酷な運命に翻弄されながらも人間らしく生き抜く竜太のドラマ。

人間の本質に迫る三浦文学の最高傑作

 昭和元年、北森竜太は、北海道旭川の小学4年生。父親が病気のため納豆売りをする転校生中原芳子に対する担任坂部先生の温かい言葉に心打たれ、竜太は、教師になることを決意する。竜太の家は祖父の代からの質屋。日中戦争が始まった昭和12年、竜太は望んで炭鉱の町の小学校へ赴任する。生徒をいつくしみ、芳子との幸せな愛をはぐくみながら理想に燃える二人の背後に、無気味な足音……それは過酷な運命の序曲だった。

小学館文庫シリーズ