看取り医 独庵

桜を見せたい夫、夫の志を見たかった妻!

 大川堤の桜のつぼみが、ほころびる様子もなく寒風に耐えていた春の初め、浅草諏訪町にある独庵の診療所に懐かしい男が顔を見せた。長崎遊学中ともに勉学に励んだ佐田利良だった。早速、診察室に招じ…

小石川養生所を食い物にされてなるものか!

 浅草諏訪町の診療所に二人の訪問客があった。伊達家の奥医師の嫡子だった独庵こと壬生玄宗の妻・お菊がいつもの握り飯と焼いた鱚を持ってやってきた。とうに四十の坂を越えた総髪の大男は、一見こわ…

生きるも死ぬも、江戸市井の人々とともに!

 頃は江戸中期。浅草諏訪町で開業する独庵こと壬生玄宗は京と長崎で漢方と西洋医学を修めた、仙台藩の奥医師の息子だ。とうに四十の坂を越えた総髪の大男は、一見こわもてだが、酒は不調法、女人には…

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