山本周五郎

周五郎時代劇の真骨頂、下町ものの傑作全8編収録!

 時代小説という形の中でしか、描くことのできない、真実の人間の生きざまがある。現代劇から時代劇、掌編から長編と、多彩な作風を持つ周五郎が、「下町もの」の中で描いたのは、まさに裏長屋、岡場所、居酒屋などという場所でしか息づくことのできない、江戸町民の切ない姿だった。ここに描かれた男たち女たちの真実の生は、今も我々に無限の共感を呼び起こす。 夜の屋台店に交錯する人々の姿が切ない「夜の蝶」、故あって無為の日々を送る男の落魄と再生を描く「凍てのあと」、檜にはなれないあすなろに託した若者の生き様「あすなろう」、ささやかな幸福にも戸惑う男女が哀しい「しづやしづ」、若者と岡場所の娼婦の悲劇「雪と泥」、武士の身分を捨て下町に生きようとする若者のあがきを描く「へちまの木」、黒澤明が愛し、「海は見ていた」の脚本の原型にもなった「つゆのひぬま」、説明不要の時代ユーモア「ゆうれい貸家」の全8編を収録。選・解題は、周五郎研究の第一人者、竹添敦子。

これぞ周五郎!江戸町人の哀歓を描く短編集

 現代劇から時代物、人生の暗部を冷徹に抉る重厚な作品からから軽妙洒脱なユーモアものと、ジャンル、作風を問わず多くの傑作を残した山本周五郎。時代物においても多彩な作品を残しましたが、何といっても周五郎の面目躍如たる世界と言えば、庶民の生活に寄り添って描かれた「町人もの」「下町もの」でしょう。それは商店の徒弟からキャリアをスタートさせ、「曲軒」と号し生涯文壇的栄誉を拒み続けた周五郎自身の生き方にも通ずるものがあるのかもしれません。名もない市井の男女の姿を同じ目の高さで活写した作品は、決して歴史に残ることのない彼らが確かにそこに息づいていたという生々しい存在感を感じさせます。 うらぶれた居酒屋に居場所を求める男達の素描「嘘ァつかねえ」、岡場所で交錯する秘密を持った男女を描く「夜の辛夷」、飛脚と宿の女の純愛を鶴の置物に託した「鶴は帰りぬ」、誰からも顧みられない少年と少女のほのかな思慕が哀切な「榎物語」、いい腕を持つがゆえにぐれてしまった植木職人のやるせない生き様「あとのない仮名」、長屋に生きる浪人と孤児、住民の交流をユーモアと感動で描く「人情裏長屋」、強欲な家主への長屋住人の抱腹絶倒の復讐劇「長屋天一坊」の全七篇を収録。選者は周五郎研究の第一人者・竹添敦子氏。

周五郎の真骨頂、武家ものの名品、全八編。

 生誕百年を超えてなお清新な輝きを失わぬ山本周五郎の傑作短編集第二弾。夫を拒み続ける新妻の秘密とは? 友情と妻へのいたわりが見事な結末を迎える表題作「山椿」。常に一心同体のように成長した二人の若者の友情と別離を描いた「饒舌り過ぎる」。不可思議な出会いの後失跡した女性への思慕と武士としての宿命が交錯する「屏風はたたまれた」。従来の時代小説にない主人公像が秀逸な「若き日の摂津守」。決闘を前にした若者と流浪の夫婦の運命的な邂逅のスケッチ「橋の下」。ある秘密を抱えた主従の歳月を感動的に描く異色作「菊千代抄」。ハリウッド映画的スケール感を思わせるサスペンス「砦山の十七日」の傑作全八編を収録。巻末には周五郎に私淑する時代小説家・和田はつ子の随筆「山本周五郎の空」も収録。装画は1巻に続き松本大洋描き下ろし。

武士の生き様を描いた周五郎の短編傑作選!

 昭和の文芸に不滅の業績を残した山本周五郎。短篇の名手と評された周五郎の作品を、新たな視点で編纂した傑作選第1巻。 隠し子をめぐる若侍の夫婦愛と友情を描いた表題作「青嵐」、おっとりとした武家の四男坊の日常をユーモラスに描く「ひやめし物語」、国元の改革に乗り込んだ若き武士の奮闘がすがすがしい「いさましい話」、安政の大獄に材をとり静謐感の中に武士の悲哀を漂わせる「城中の霜」、三千両輸送の大役を命ぜられた男の道中を描く「枕を三度たたいた」、余命数カ月を宣告された武士の壮絶な生き様と死に様「月の松山」、病身の若殿と型破りの家臣の少年の交情を描く「桑の木物語」の、武家ものの秀作7篇を収録した。 周五郎の描く武士は、決して特殊な生を生きる人々でなく、愛し憎み、時に過ちを犯しつつも懸命にその生を全うしようとする。その姿は、文壇的栄誉を拒み、つねに読者に向き合おうとした周五郎の人生に似て、今も我々の胸を打つ。

小学館文庫シリーズ