藤原緋沙子

離ればなれだった最愛の人を抱きしめる幸せ

 最愛の妻・志野が介護をしていたという、公儀のお尋ね者であった蘭学者・野田玄哲とかかわりの深い、笠間藩『辰巳屋』の一人娘・千里からの文に目を通した青柳新八郎。 四年前、不意に家から姿を消したまま、いまだ行方知れずとなっている妻との糸は切れてはいなかった——。 千里の文によれば、船で川を下り、笠間藩を出た志野は、翌日江戸の商人で、紙問屋『富田屋』の主・清右衛門の助けを借りて、江戸に向かったという。 ようやく妻に繋がる糸を手繰り寄せたかと思われたが、なんと、浄瑠璃長屋の住人・八重が驚くべき窮地に立たされ、さらに志野までもが命の危機にさらされることに……。 弟の万之助に家督を譲り、陸奥国平山藩から江戸へ出、『よろず相談承り』を生業とする貧乏浪人となってまで、探し続けた努力は報われるのか? 涙を流さずしては読み終われない、珠玉の時代小説。感動のシリーズ最終巻。

「よろず相談承り」の看板に嘘偽りなし。

 『よろず相談承り』で口を糊しながら、行方知れずの妻・志野を探す浪人・青柳新八郎は、浄瑠璃長屋の木戸を潜った。 と、家の前には北町奉行所の見習い同心・長谷啓之進と、長屋に住む八重の姿が——。 諸物をなんでも買い付ける「宝屋」の大おかみ・おていの用心棒を引き受けた帰りだった。 なにやら難しい顔をしている啓之進は、最近、岡っ引の仙蔵が顔を見せないため、どうしても気になってしまい、この長屋までやって来たという。 心配する三人の相談が耳に入ってしまったのか、仙蔵の隣に住む大工の女房・おくまが口を挟んできた。 おくまの話によれば、どうやら、十日ほど前に長屋を訪ねてきた、口元に小豆ほどの黒子のある、美しい女と関わりがあるようだ。 なにかしら仙蔵の過去と繋がっているのだろうと考えた新八郎は、早速、昔住んでいたという長屋へ足を運ぶと、そこにも例の女が現れたというではないか……。 翌日、「宝屋」の店先で偶然、路地に消えていく仙蔵の背中を目にした新八郎は不審を覚える。 「宝屋」のおていは、以前に二度も危ない目にあっているらしい。 元巾着切りの岡っ引に、いったい何があったのか? 人気シリーズ第三弾。

「よろず相談」承る浪人、弱き者を救う。

 弟に家督を譲り、浪人となって、陸奥から江戸へ出てきた青柳新八郎。 裏店にひとり『よろず相談承り』の看板を掲げ、なんとか食い扶持をやりくりしている。 今日は、妻の志野が姿を現しそうな、義父・狭山作左衛門の墓まで足を向けてみた。 実は、数年前に行方が知れなくなった志野を探すため、昼夜を分かたず、市中を歩き回っているのだ。 だが、目算が外れた新八郎は肩を落として、近くの水茶屋へ。 水茶屋には、一人娘を亡くしたという、呉服屋「佐原屋」の内儀・おいねが——。 静かに涙を拭うおいねと知り合ったその翌日、どうにも懐が寂しくなってきた新八郎は、仕事を紹介してもらおうと、口入れ屋金兵衛の「大黒屋」へ出向く。 大御番衆・安藤仁右衛門の娘・菊野を、金貸しの仲介をしているお濃から取り戻す仕事を請け負ったのだ。 すぐさまお濃に直談判しに行ったはいいものの、なんと、当の菊野が「もう安藤家には帰りません」と言うではないか……。 『よろず相談承り』の看板を頼ってくる、哀しくて切ない事件を解決する一介の浪人。 胸を打つ時代小説、シリーズ第二弾。

裏店の看板「よろず相談承り」が心温める。

 三年前、不意に家を出たまま、行方知れずとなっている妻を忘れられない青柳新八郎は、弟の万之助に家督を譲り、陸奥国平山藩から江戸へ出てきて、愛する志野を探していた。 今では浪人となって、独りで住んでいる裏店の軒に『よろず相談承り』の看板を提げ、見過ぎ世過ぎをしているが、米櫃の底にはわずかな米粒しか残っていない。 そろそろ毎日食べていけるだけの仕事を見つけねばと溜め息を吐いていると、ガマの油売りで浪人の八雲多聞がやって来た。 一昨日、地回りに難癖をつけられていたところを救ってもらった縁で、評判の巫女占い師・おれんの用心棒仕事を紹介するという。 渡りに船と話を聞けば、おれんは占いに欠かせぬ亀を盗まれたばかりか、脅しの文まで投げ入れられたらしい。 脅しの文には、「お前は世に仇をなす者だ、死ね」と書かれていたようだが……。 心がもつれた事件が持ち込まれる『よろず相談承り』の看板の下で織りなす、悲喜こもごもの人間模様。 珠玉の時代小説、シリーズ第一弾。

小学館文庫シリーズ