この世の全部を敵に回して

直木賞受賞作家渾身の問題作!

 戦争、テロ、狂信、犯罪、飢餓、貧困、人種差別、拷問、幼児虐待、人身売買、売買春、兵器製造、兵器売買、動物虐待、環境破壊−−。私たち人間は歴史の中でこれらのうちのたった一つでも克服できただろうか。答えは否だ。  かくも、残酷で無慈悲な世界に生まれ、苦痛と恐怖に満ちた人生を歩まされる「死すべき存在」としての人間。だからこそ、人間には、「愛」が必要だ。ここで注意深く伝えたい「本当の愛」は、憐憫であり、哀れみである。その愛は、死に対して為す術もなく無力であるからこそ、差し述べることのできる遍く広いものである。身の回りの特別な相手だけの幸福を祈ることから離れることができてはじめて、ひとは、貧困、暴力、戦争、差別、迫害、狂信といった諸悪を無力化することに向けて船出をすることができるのである。

小学館文庫シリーズ