太宰治

閉塞感に支配された今を照らす一筋の光

 両親にも祖母にも心を開かず、兄たちからはいじめられ、つねに劣等感や不安に苛まれていた津軽での幼・少年期を書き、文壇デビュー作となった「思い出」。実家を離れていた太宰の十年ぶりの帰郷で感じた故郷への、家族への思いを綴った「帰去来」。母危篤の報を受け、妻子を連れての帰郷を描いた「故郷」。太平洋戦争下の時局差し迫る中、出版社からの依頼で旅した津軽での3週間をまとめた「津軽」。そして、「富嶽百景」は、退廃的な生活を送っていた太宰が、富士山の麓の宿に滞在し、小説家として再生するまでの日々を描いた作品。激しい女性関係で有名な太宰の、ただ一人の「妻」となった石原美和子との結婚までの日々も赤裸々に綴られています。私小説と言われるこの5つの話で、太宰は、社会での生きにくさと自分の弱さをありのままに綴りながら、人間らしく生きるとは何かを模索し続けています。それは、思うようにならない「今」という社会を生きる私たちにとって一筋の希望の光になるのではないでしょうか。巻末には、スーパー中学生作家としてデビューし、活躍を続ける現役高校生作家鈴木るりか氏の特別寄稿を掲載。瑞々しい感性で読み解いた解説文も必読です。

小学館文庫シリーズ