山本一力

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菜種晴れ
著/山本一力発売日:2021-04-06

深川に、少女の夢が花開く。

 房州勝山の菜種農家の末娘・二三は、黄色い海原のように潮風に揺れる菜の花畑を駆け回って育った。しかし、まだ甘えん坊のわずか五歳にして、江戸深川で親類が営む油問屋の跡取りとして貰い受けられることとなった。そこは良質な菜種油だけを商うことで江戸中に名の通った大店。「家族に迷惑をかけないように」。二三は今にも溢れ出しそうな望郷の念をそのあまりにも小さな胸に押し留め、手習や料理の厳しい修行の日々にも決して弱音を吐かず、他の大店からのからかいにも気丈に振る舞い続けた。持ち前の器量や母親ゆずりの天ぷらの腕前、周囲の温かな支えもあり、やがて深川の誰もが認める跡取りへと逞しく成長してゆく。いよいよ元服を迎えた二三は、怪我の当主に代わり、深川の油問屋の世話人たちが集う江島神社参拝に赴くことに。しかしその夜、寝静まる宿に江戸から来たという雑穀問屋の口から信じ難い知らせが飛び込んできた。「深川の町が、燃えている!」。抗いようもなく降りかかる幾多の苦難、倒れそうになった時にこそ道しるべとなるかけがえのない出会い。自分を信じてひたむきに前を向き続ける少女に光を当てた、涙の江戸人情物語。解説は末國善巳氏。

粋なお節介で、深川はまわる!

 言えば伝わる。でも、言わなくても伝わる町がある——。  時は天保七年、舞台は江戸・深川を東西に走るまねき通り。十四の店が肩を寄せ合うように軒を連ねるその通りでは、様々な事情を抱えた商い人たちが見栄と心意気をよすがにして懸命に日々を重ねていた。町唯一の駄菓子屋の主人である徳兵衛は根っからの子ども好きでありながら、子どもが寄り付かないほどの偏屈者。しかし、一度誰かと約束を交わせば、たとえ百文の凧に二百文出されても決して売らずにとっておくというどこまでも義理堅い男でもあった。この年の端午の節句、徳兵衛はそれまでと同じように名前を明かさずに、湯屋に来た子どもたちのために駄菓子を差し入れたのだが……。その他、亭主の色里通いを静かに見守る豆腐屋の女将、祭りが控えているとあらば神輿担ぎたさに商売そっちのけとなる鰻屋、嵐の夜でも客のためなら喜んで駆けつける駕籠宿の夫婦など、深川ならではの「粋」な面々が織りなす、笑いあり涙ありの十二ヵ月

鮨職人の心意気と江戸の人情、ここにあり!

 天明から元号が寛政へと改元された一月下旬、鮨職人の新吉は、深川・亀久橋のたもとに「三ツ木鮨」の看板を掲げた。「吉野家」の親方から受け継いだのは、酢に砂糖を用いたほどよい甘さが人気の鮨だ。伝統の味を守るため、日々精進を重ねる新吉だったが、土地に馴染みのないこともあり開業早々から苦戦してしまう。さらに、公儀が武家の借金を棒引きにする「棄損令」を発布したことにより、江戸にはたちまち不景気風が吹き荒れだす。大きな痛手を負う新吉だが、ふとしたきっかけで旗本勘定方祐筆・小西秋之助と出会い、かきの皮を使った合わせ酢を教わる。それを活かそうと試行錯誤を重ねた新吉のかき鮨は、徐々に町方からの評判を生んでいく。「棄損令」に思い悩んでいた秋之助も、新吉の商いが軌道にのることで世のために役に立つことができたと喜びを噛みしめていった。生きる世界が違えども、互いの生き様を通して信頼し合っていく新吉と秋之助。そこには男たちの仕事にかける熱い心意気があった。職人の誇りをかけ日々奮闘する新吉と、長屋に暮らす仲間たちとが織りなす感涙の人情時代小説。解説は末國善巳氏。

古典落語の人気演目を本邦初のノベライズ

 直木賞作家で時代小説の第一人者が、「落語の人情世界」を小説化。 夫婦の愛情を温かく描いて、屈指の人情噺として名高い「芝浜」のほか、登場人物がすべて実直な善人で、明るい人情噺として人気の「井戸の茶碗」、船場の商家を舞台にした大ネタ「百年目」、一文無しの絵描きが宿代の代わりに描いた絵から意外な展開となる「抜け雀」、江戸末期の名脇役だった三世仲蔵の自伝的随筆をもとに作られた「中村仲蔵」を収録。 落語ファンからも人気の高い演目を、細部を丁寧に描き込み、ときに独創を加え、ときに人生訓を交え、見事に調理してみせます。 高座芸である落語を小説という形で表現する、新しい試み。 聴いてから読むか、読んでから聴くか。 元ネタを知る人も知らない人も楽しめる、落語小説集です。

 寛政の江戸深川に「三ツ木鮨」を構えた鮨職人・新吉は親方から受け継いだ柿鮨(こけらずし)の味と伝統を守るため、日々精進を重ねていた。職人の誇りをかけて、満足のいく仕事をする。それが新吉の信条だったが、ふとしたきっかけで旗本勘定方祐筆・小西秋之助の知己を得る。武家の借金を棒引きにする「棄捐令」に思い悩む秋之助との間に、互いの生き様を通して生まれる男同士の信頼感。住む世界が異なろうとも、そこには己れの仕事に命を燃やす男たちの熱い心意気があった。 長屋に暮らす仲間たちと織りなす<笑いあり涙あり>の時代小説。

小学館文庫シリーズ