刑事の血、女の血。
「あなたは、誰が産んでもうちの娘です」 北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之独楽』を発見する。滝川は青森市出身。八戸市の歓楽街で働いた後、札幌に移住した。生涯独身で、身寄りもなかったという。真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁を、わずかな糸から紐解いてゆく。 二人デ居タレドマダ淋シ、 一人ニナツタラナホ淋シ、 シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、 シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。 (北原白秋「他ト我」より) 北海道警釧路方面本部。新たな刑事の名は、大門真由。
女の人生は、惚れた男で決まる。
北海道最東端・根室は、国境の町である。戦前からこの町を動かし、人格者として知られる河之辺水産の社長には、三人の娘がいた。 長女智鶴は政界を目指す大旗運輸の御曹司に嫁ぎ、次女珠生は料亭「喜楽楼」の芸者を経て相羽組組長の妻となり、三女早苗は金貸しの杉原家の次男を養子にして実家の家業を継ぐことになっている。 昭和四十一年の国政選挙で、智鶴の夫・大旗善司は、北方領土の早期返還を公約に掲げ、初当選を果たした。選挙戦を支えたのは、珠生の夫である相羽重之が海峡でロシアとせめぎ合いながらかき集めた汚れ金だった。三姉妹はそれぞれの愛を貫き、男たちの屍を越え生きてゆく。 直木賞作家が贈る波瀾万丈エンタメ!
直木賞作家桜木紫乃作品、初の映画化原作!
「かたちないもの」 笹野真理子は函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取る。 「海鳥の行方」 道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。「西港で釣り人転落死」の一報が入ったのはその一月後のことだった。 「起終点駅(ターミナル)」 映画化原作 表題作 鷲田完治が釧路で法律事務所を開いてから三十年が経った。国選の弁護だけを引き受ける鷲田にとって、椎名敦子三十歳の覚醒剤使用事件は、九月に入って最初の仕事だった。 「スクラップ・ロード」 飯島久彦は地元十勝の集落から初めて北海道大学に進学し、道内最大手・大洋銀行に内定した。片親で大手地銀に就職するのは、当時異例中の異例のことだった。 「たたかいにやぶれて咲けよ」 道東の短歌会を牽引してきた「恋多き」歌人・中田ミツの訃報が届いた。ミツにはかつて、孫ほどに歳の離れた男性の同居人がいたという。 (「潮風(かぜ)の家」 久保田千鶴子は札幌駅からバスで五時間揺られ、故郷の天塩に辿り着いた。三十年前、弟の正次はこの町で強盗殺人を犯し、拘留二日目に首をくくって死んだ。
少女は、刑事にならねばならなかった。
1992年7月、北海道釧路市内の小学校に通う水谷貢という少年が行方不明になった。両親、警察関係者、地元住民の捜索も実らず少年は帰ってこなかった。最後に姿を目撃した同級生の杉村純少年によると、貢少年は湿原のほうへ向かっていったという。 それから17年、貢の姉・松崎比呂は刑事となって札幌から釧路の街に帰ってきた。その直後、釧路湿原で他殺死体が発見される。被害者は、会社員・鈴木洋介34歳。彼は自身の青い目を隠すため、常にカラーコンタクトをしていた。比呂は先輩刑事である片桐周平と鈴木洋介のルーツを辿るように捜査を進めてゆく。 事件には、混乱の時代を樺太、留萌、札幌で生き抜いた女の一生が、大きく関係していた。 『起終点駅(ターミナル)』で大ブレイク! いま最注目の著者唯一の長編ミステリーを完全改稿。待望の文庫化!