いいから変身してごらん!
橋の中ほどに真っ白な髪の老婆がぽつんと座っている。巷で評判の占い師だ。『玉占〜たまうら』と書かれた行燈に照らされた二つの影は大きな壺とでぶ猫。思い通りにならない人生に疲れた四人の男女が老婆の手招きに誘われて、壺から取り出した玉は正直玉、なまけ玉、やきもち玉、はずれ玉。それが四人の不運の元だった。「大福や、ちょいとひと働きしておくれ」と老婆に言われた白いでぶ猫が、壺に上体を突っ込んでくわえてきたのが、四人の人生を逆転させる、ほら吹き玉、働き玉、妬かれ玉、当たり玉。バカ正直で勘定方をしくじった浪人の清之進、十九になっても下っ端扱いの醤油問屋の小僧・亀松、髪結いの亭主の素行に気を揉む女房のおれん、そして、並外れて勝負勘が悪いくせに博奕に目がない人足の紋太。どうにも、うだつの上がらない面々が、老婆から一日二百文で借り受けた玉は果たして悩みを解決してくれるのか。得体の知れない老婆と、とんでもない物の怪に変身する白いでぶ猫・大福が、業が深くて手前勝手な人間どもに呆れながらも、渋々手を差し伸べる。ハート・ウォーミングでちょっと怖い、お江戸ファンタジーの新境地、今、扉が開く!
心が柔らかくなる、あやかしエンタメ開幕!
愉しく読めて、ままならぬ浮き世も楽になる。 これぞあやかしエンタメの隠し玉! ——高田郁さん(作家)推薦! 「あんた、迷いを晴らしたいんだろ。いくら出せるかね?」 ●第一話 みれん玉 おみつは、三味線の稽古場で出会った京さんに惹かれている。京さんからもらったかんざしをなくしてしまったおみつは、占い老婆から「えにし玉」を渡される。 ●第二話 やっかい玉 おこうは、女主人お種の営む一膳飯屋・亀屋で働いている。浮いた話一つなく暮らすおこうに、占い老婆は「すかれ玉」を手渡す。 ●第三話 びびり玉 俵兵衛は、若殿から命じられた難題に、困り果てていた。解決の糸口が見つからないところで、占い老婆に出会い「肝っ玉」を借りる。 ●第四話 忘れ玉 正太は小間物屋の一人息子だが、記憶力が良くない。道に迷った正太の前に老婆が現れ、「覚え玉」を差し出す。 ●第五話 よくばり玉 団子屋で働きながらつましく暮らすしているトメには、毎日の楽しみがない。そんなある日、占い老婆から持っているだけで飽き飽きするほど金が入り込んでくるという「あきあき玉」を借りた。