佐野洋子

傑作絵物語に未発表童話を加えた作品集

 自由って何だ? 幸せってどこにある? ——林の中で、のんびり自由気ままに暮していた豚の前に、ある日、きつねの紳士が現れた。「あなたの豚小屋があるために、環境がこわれるんですよ」押し寄せる文化の波に飲み込まれ、自由を失った豚の運命は……。没後に発見された佐野洋子の原画30点を収録した名作絵物語。 併録した童話「やせた子豚の一日」もまた、著者の没後に発見された未発表作品。父と娘、二人暮らしの子豚の一日を、鮮やかに描いたユーモア溢れる快作。文庫化にあたって息子・広瀬弦の絵8点を収録。 佐野洋子の魅力全開の二作品が楽しめる待望の作品集。

ちょっとへんてこな愛の物語集

 自由を求めてジャズ喫茶から飛び出した〈椅子〉と海が見たくて動物園を逃げ出した〈ゴリラ〉。ふたりが長い道行ですれちがう〈恋する少年と少女〉、〈人格者のブランコ〉、〈若いヤクザとエナメルの靴〉、〈穴のあいた靴下をはいた泥棒〉、〈演説する桜の木〉、〈にせもののミンクのコートを着た女〉、〈中学生の女の子と真っ白なハンカチ〉、そして〈死んだ猫と絶叫するテレビ〉——ゴリラは椅子をなでながら海を見ている。椅子は海を見ないでゴリラだけを見ている。これは、美しくも悲しい恋物語(「もぞもぞしてよ ゴリラ」)。 気取り屋の狐・インカ帝国を背負った亀・傷ついている鰐・主体性のない馬・見かけだけかわいいパンダ・熊らしい熊・恋をしない河馬・よろめく象・見栄っぱりの蛙・「キー」しか言わない豚——動物たちを描いた皮肉でユーモラスな掌篇30篇(「ほんの豚ですが」)。 二冊の傑作を一冊にした佐野洋子の〈大人のための物語集〉。 待望の文庫化。絵も多数収録。

笑ってしんみり。元気が出る物語エッセイ

 〈物語エッセイおそるべし。これがもし普通のエッセイだったら、どの登場人物も、ここまでの強度は持ち得ない。佐野洋子のハサミで裁断され、物語のなかに解き放たれたからこそ実体と自由を獲得し、一人ずつがその都度、鉄砲玉のように新しく、こちらにとびだしてくるのだ。読者は、蜂の巣である。〉——江國香織さんの解説より。 この本は、見事な「恋愛小説集」だ。フィクションとエッセイの間を行ったり来たりする不思議な作品ぞろい。これを物語エッセイと名づけることにしよう。2010年12月に刊行された単行本に、強烈きわまりない〈マチコさん〉を主人公にした中篇(筑摩書房刊『問題があります』所収)を加えた完全版。全34篇を収録。著者自身によるイラストレーションも多数掲載しています。

右の心臓
著/佐野洋子発売日:2012-03-06

少女の目線で戦後を描いた幻の自伝的小説。

 「戦争が終ってからずっと父さんは内地の話をしてくれた。あぐらの中にタダシをすっぽり入れて、ヒロシと私は父さんにぐてりと寄りかかって、兄さんは、父さんの前にかしこまって坐って、みんなシーンとして父さんの口を見ていた」——中国からの引き揚げ。父さんの伯父一族が住む山梨の田舎での貧しいがエネルギーに満ちあふれた生活を、あくまで少女の目から描いた自伝的小説。小さな共同体の中の子だくさんの家族、昭和20年代の日本の原風景が丸ごと裸のままで立ち上る。「心臓が右にある」最愛の兄の死の描写は、この作品のハイライトだ。「もう死んだから下着もパンツもはかせないのか。いやだなあ、とわたしは思った。パンツぐらいはかせればいいのに」       * 本作は1987年から88年にかけて「図書新聞」に連載され、88年10月に(今はない出版社)リブロポートから刊行された。絵本作家佐野洋子が初めて書いた長篇小説である。数々のエッセー集で繰り返し描かれてきた「「家族」がほぼそのまま登場する自伝的な小説といっていいだろう。この幻の作品が文庫化され再び世に出る意味は大きい。 解説:岩瀬成子(児童文学者)

小学館文庫シリーズ